Island in the SKY
訳すると「空の孤島」とでも言おうか。マラウィ南部に聳えるムランジェ山塊は現地ではこう呼ばれている。
ムランジェ山の最高峰はSapitwa Peak、3001m。
北はタンザニアのキリマンジャロと、南は南アフリカのドラケンスブルグ山塊の間では最も高い山となる。
ここでは4日間かけて、ムランジェ山塊を西から東に横断するルートをとった。
Forest Station のあるLikaburaへはバス、ピックアップを乗り継いでブランタイアから3時間。茶畑の中を進む美しい光景が見られる。
DAY1
リカブラより1000mアップのチャンベハットを目指す。
ムランジェ山は、知る人ぞ知るマイナーな山なので、訪れる人も少なく、したがってタンザニアやウガンダのような外国人料金が設定されていない。
それはすんばらしいことなのである!
入場料は何日いても70円、キャンプは一泊70円、そして!山小屋の宿泊がななななんとたったの140円なのだ。当然、テントを持たない山小屋泊の山行を選んだ。この山でキャンプをする物好きなんているのだろうか?
質のいい(そして高額な)4万分の1の地形図を手に入れ、今回はポーターもガイドも付けないで行くつもりであった。何よりも自由な登山がしたかった。
しかし、森林局の説得によりポーターを一人付けることとなってしまった。理由はこうである。
「道はかなり不確かで迷いやすい、何よりファイアブレイクと呼ばれる偽の道ができてしまっているのでそちらに迷い込んでしまうことが多い。さらに最高峰サピトワに登りたいのならガイド抜きの登山は不可能である、頂上へ向かう道はないし分岐に標識すらないのだから」
しかし・・・・↑この説明は後からすべて嘘であることが判明、事務局の人がおそらくガイドやポーターとは友人で雇用を生み出したかったのであろう。
この観光客があまり来ない山でさえ、ポーターの登録人数は90人。ここのポーターの管理システムはかなりしっかりしていて、必ず事務所を通して登録された人間が選ばれることになっている。なんでもローテンション制とか・・
事務所の外には30人ものポーターが待機していたが、自分が選ばれなかったとわかると、ぞろぞろと帰っていった。
なぜこんなに多くのポーターがいるのか、やはり給料が他の仕事より高額なのだと思う。ケープマクレアの海外青年協力隊員の話では、彼の雇っている家政婦の月給は1ヶ月2800円。ポーターの給料は一日700円と日本人の感覚では激安だが、4日働けば家政婦の1ヶ月分の給料になってしまうのである。
まあ、前置きはさて置き、
チャンベハットへの道ね・・
松の林の中を進んだ。今日一日だけで50人くらいの職人とすれ違っただろうか。なんの職人かというと、松運び職人である。この山は広範囲に渡り松の木が植林されており、その伐採された木々を頭に載せ屈強な体をもった現地人が山から走り降りてくるのである。
この仕事は一日一往復だそうだ。ある意味非常に非効率的・・・
一時間ほどで林を抜け、展望が開け、背後には小さくなった家々が並ぶ村が見え、右手には深く抉れた谷、その対面には岩肌が見事なChilemba峰(2355m)がどっしりと立つのが見える。
ここからChambe Basinと呼ばれる台地までは直登。スタート地点から2時間で900mアップしてこの台地にたどり着きそこからは、なだらかな心地よい道を進むこと小一時間、Chambe Hutに到着。
この山小屋からはChambe峰の垂直に切り立った高さ300mの壁が見える。この壁ドドドーーンと立派で威圧的、ヨセミテの壁のように見事であった。目の前には小川が流れ、ケアテイカーと呼ばれる人が来て暖炉の薪に火を付けた。一泊140円のくせにかなり立派なのである、う〜ん日本では薪さえも買えない値段だぞ。
夜は満点の星空。オーストラリア人のハイカーに南十字星の位置を教えてもらった。
DAY2
この山行で唯一ハードな日。行程が長いので5時起床、おーう山タイムだ。
暖炉をつけてハムサンド、リッチだ・・おまけに窓からは朝に照らされてオレンジ色に輝くバーチカルなChambe峰の美しい壁・・・・
出発してからもしばらくは赤く照らされた美しい大地を眺めながら歩く事ができた。まさしく早起きは500文の得。
ゆるーやかな登り、美しい山並みを眺めながら2時間半で最高峰への分岐点。
何!話と違ってちゃんと標識が!しかも頂上までは100mおきに赤いマーカーが!
迷いようがないのである・・・やられた。
ここからマラウィ最高峰の3001mの頂上までは800mのアップ。頂上の名前Sapitwaとは現地の言葉で「Nobody can go there」だと聞いた。
でも行っちゃうもんね。
岩の上を進む道はさながら北海道の羅臼岳のよう。靴はグリップが効き直登も何のその。
初めて見る植物が並ぶ。尖った葉っぱを持ち細い幹が特徴の木、アロエのような植物に生える美しい赤い花。そして真っ青な空にどこまでも続く雲海。楽しい登山だった。
頂上までは分岐から2時間。今まで見たことがないような、マシュマロのような雲海が360度、周囲を覆っていた。Island in skyという地元の呼び名がよくわかる。
まるで上に乗れそうな雲だった。
頂上から降りてくると、周囲をガスが包んでいた。シダが生える鬱蒼とした林を抜け5時半、Thuchila Hutに到着。
DAY3
昨日の雲海とはまた違う、なめらか〜な雲が下界を覆っていた。ポコッポコッとまるで海に浮かぶ小島のように、雲の中から山が頭だけ出していた。それを朝日が赤く染める。
今日、やっと自由を手に入れた。Sapitwa峰を登ってしまったらガイドはいらないので、ポーターには帰ってもらったのだ(始めからその契約だった)。
ムムムム、と地図を眺めながら、分岐点では時に不安になりながら、自分の地図読みが合っていたときの快感は久しぶりである。昨日の泊った小屋と今日の山小屋はほとんど高低差がなく、歩行時間は5時間。
2度ほど日本でいう「峠」への登りがあった。
ヤシの幹を持ちシダの葉が生えるへんてこな植物、一面黄色の花畑、太陽に輝く大草原を見たと思ったら日本的な苔むす石が散乱する小川を渡る。
この山は植生がコロコロと変わり本当に楽しい。
今日は誰にも会わなかった。こんな広大な山塊を独占できるなんてすごい。
DAY4
下山日。2080mから1000m駆け下りて、未舗装の車道に出た。
運が好ければヒッチできるが大抵は8Km先のPhnombeという村まで歩かなければいけない。
僕らも当然のごとく車なんかにお目にかからなかったが、小さい村の中を通る、とても楽しい2時間のウォーキングとなった。
アフリカでの登山が面白いのは、途中に観光客が訪れないような小さい村々を通れるところだと思う。そんな時、僕の想像していたアフリカとはまさしくこの村であったかもしれないと思うことが多い。
赤色土の道が一本、青い空の中を突き抜け、両脇には泥で固めた茅葺き屋根の家々が並ぶ。子どもが「ムズングー、ムズング!(白人)」と飛び出してきては、いつまでも見えなくなるまで手を降り続ける。
やはり観光客が来ないためか、この村でも「ペンをくれ」「金くれ」とか言われることはほとんどない。代わりの声はこれだった。
「Give me photo!!!」「take me photo!」
アフリカでは今だカメラに魂を取られるとでも思っているのか、写真を嫌がられることが多い。観光客が沢山入っている東アフリカでは、写真を撮ろうとすると必ずといっていいほど「金くれ」と言われた。
そんなわけで、人に「写真を撮ってくれ」なんて言われた日には、こちらとしては「ははー、喜んで撮らせていただきます」という心境なのだ。
そこで、この村でももちろん「撮ってくれ」と言われた人に「いいよ」とカメラを向けた。そしたらまた変わった反応が返ってきた。
「やったー、成功したー!」と彼女は大騒ぎで喜び、近所の人を呼んできて一列に並んだ。あっという間に20人ほど集まってくる。
「はい、チーズ」
写真を撮りおわると、「金をくれ」とはもちらん言わずに「サンキュー!」と皆が口々に叫び、自分の家に帰っていった。
Warm heart of Africa かあ・・・
そして天空の島、ムランジェ山・・・
いい登山だった。
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