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孤独と不安と葛藤と (ヨーロッパ)
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ちきしょー!スーパーパラダイスビーチとかいって、ホモのヌーディストビーチで気持ち悪いだけじゃんかよー。右を来ても左を見ても、男がフルチンで寝ころんでた。女の影はほとんどなかった。いてもあってもせいぜいトップレス。そりゃ常識的にそうだよな、いくら「開放的」なヨーロッパでも素っ裸の美女はいないか。そりゃー海は映画「グラン・ブルー」のように透明できれいだけれど、もう寒くて入れないし、街に行けば新婚であふれているし、やっぱりリゾート地に一人で来るのは寂しくなるだけだなー。
 そして何よりリゾート地は物価そのものが高いので、部屋の中でコソコソとガスストーブを点けて自炊。リーゾート地における一人旅の寂しさを、自らの身をもって再確認してしまった。
むなしい、トホホ…
 ぼくはエーゲ海に浮かぶ島、ミコノス島に来ていた。旅の行程をとりあえずギリシャで一区切りしようと思っていたので、ここまで頑張ったご褒美、そして疲れをとるためにこの島にやってきたのだった。寂しい思いを味わっただけだったが、それでも特に何もすることなく三泊もして、体の疲れはもう十分とれた。これでまた走り始めることができる。

空は雲一つないギリシャ的青空であった。本島の港町ピレウスまで六時間。甲板に出ると日差しは強いのに風はとても冷たかった。もうそろそろ夏も終わりだな。

 ピレウスを出て北へと向かう道は山道だった。それに加えて向かい風。やっぱり近道を考えないで平らな道を選ぶべきだった。今日は九時間こぎ140キロ進む。最近治安が悪いので野宿は危険だからやめた方が良いと由紀子さんに止められていたが、泊まるところが見つからなかったので、あきらめて野宿をする。いくらテントの中が心地よくても野宿をすると熟睡はできない。少しの物音で目がさめる。自宅のベッドで心ゆくままぐっすりと眠りたいと心から思った。久々に自転車をこいだせいと、登りがきつかったこともあって、夜中に何度も足がつる。
 こんなことで、シンガポールまで着けるのだろうか。
 ミコノスもあわせると、結局アテネ周辺には10日間もいたことになる。ここからトルコのイスタンブールまで1100キロ、11日間である。

 ポルトガルを出発してからというもの、とりあえずアテネまで行けば、何かが見えると信じていた。「とりあえずアテネ、アテネ、アテネ!」呪文のように唱えながら必死でこいできた。
 だが、いざアテネに着いても自分に対する自信がまったくついてなかった。なんせまだ3分の1も来ていないのだ。最近はまた日本の夢をよく見るようになっていたし、深い孤独感は未だに存在した。日本を出てからまだ進歩していないのじゃないだろうか。
 こんな、弱気じゃ駄目だ、がんばろーガンバローと自分に言い聞かせる。

 なるべくキャンプ場や、宿に泊まるようにしようと思ったので、無理しないで100キロ前後をのんびりと心地よくこぐ。昼は毎日「ギロス」と呼ばれるギリシャ特有のサンドイッチを食べる。道なりにはたまに無花果の木が生えていて、それを見つけては摘んでスーパーの袋に入れて、片手で皮をむき、自転車をこぎながら食べた。夜は相変わらずパスタを作りビールを飲んだ。だんだんとマンネリ化してきたこの生活に慣れてきてはいたが、自転車をこぐという行為自体に飽きてきてしまっていた。それもこの先の不安要素の一つだった。

 ラリッサを経由して、アテネを出てから5日目にギリシャ第二の首都テッサロニキに到着。テッサロニキも大きな街だったが、ここでもぼくの興味は何よりも食に注がれた。食べたい食べたい、とにかく腹一杯食べたい。市場に行くと、そこは食材であふれていて、見ているだけで興奮した。ドーナツを見つけては頬張り、フルーツを買っては歩きながら食べ、屋台を見つけてスペシャルギロスを食べて満腹になると、もうこの場所にいても意味がないように思えてきてしまった。ぼくにはもう物欲も、性欲もなく、あるのはただ食欲だけだった。満腹になれば欲求は満足された。
 遺跡見物よりも、このテッサロニキでやっておかねばならない重要なことが一つあった。それは自転車の修理であった。以前スペインで直してもらった前輪のハブの調子がおかしくなってきていた。トルコに自転車屋があるか不明なので、この最後の文明国で直しておかねばなるまい。ダウンタウンの自転車屋をまわったがどこもマウンテンバイクなど扱っておらず、修理部品も扱っていなかった。店員に聞くと、親切にも郊外にある自転車屋を教えてくれた。
 自転車を30分走らせ着いてみれば、街中の自転車屋とは比べものにならないくらいきれいで立派な自転車屋だった。マウンテンバイクから、ロードレーサー、バイクの部品までそろっている。主人は昔自転車のレーサーで何度も有名な大会で優勝したことがあるといっていた。いざ見てもらうと、困ったことに、ハブの全取替えが必要なほど悪いらしい。値段はなんと1万円。アイタタタ・・・もっと安い部品はないのかと頼み込むと、6000円のもあると言うのでそれを付けてもらうことにした。何にしても痛い出費だ。
 よく他の旅行者に自転車は交通費がかからなくていいね、と羨ましがられたが、メンテナンス代や地図代などを考えると、そうとも言い切れない。何より莫大な燃料費がかかっているのだ、それが一番かさむ。燃料とはもちろん食べ物、人の3倍は食べているだろうな。
予想外の出費だったが、こればかりはしょうがない。この自転車が無くなったらその時点でぼくの旅は終わってしまうのだから。
 夜は、文明とのお別れ会。ゲームセンターでビデオゲームをとことんやった。
ここからトルコまで、残すは400キロ。装備も心の準備も万全だ。いくぜトルコ。
アーンド待っていろ、アジアよ。

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