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8.旅もなかなか忙しい
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Argentina>>Chile
4.アルパタトレッキング

 

そもそも、この時期にトレッキングに来るバカはあまりいない。期待していた道具のレンタル屋さんも閉まっていたし、国立公園事務局も村のインフォメーションも閉鎖同然だ。トレッキングの本には11月からのトレッキングについて述べられてはいるが、今この8月のことなんか眼中にないのか触れてさえないのである。
そんなわけで、僕だって歩けると思ってこの村に来たわけではない、ただ山を眺められればいいなと思っていただけだ。
しかし、地球的には不運ということになるが、僕的には実に幸運にも今の時期のトレッキングも可能ということが判明。なんでも今年はアルゼンチンに冬がなかったも同然で、この地域の7月の平均気温は通年0℃らしいが、今年は6℃もあったという。トレイルは濡れて一部通行不能のものもあるが雪はないとのことだった。

一日目、僕らはここで最も人気があるという、Laguna Torreへと向かう。片道3時間の日帰りコースだ。
乾燥したコケが木に付着した風景が見られる樹林帯の中を小高い丘へと向かう。このコース標高差はたったの200mくらいしかない。途中通過した池は、上に乗っても壊れないほどの厚い氷が張っていた。
一時間ほど歩くと、急に目の前が開け、遠くにCerro Torreとその下の氷河が見えた。ここからは谷の合間を進むことになる。道ははっきりしていて迷いようがない。ちなみに、こうやって早々と遠くの目的地が見えてしまって、平坦な道を二時間も歩いていくコースは僕は嫌いだなあ。
右手に見えていたフィッツロイは目の前の山に隠れてしまった。

出発からちょうど3時間で目的地へと着く。
氷河の溶けた水が作り出した薄緑色の湖の向こうに、氷河本体と3本の柱がそそり立つトーレ山が見えた。この湖からCerro Torre との標高差は2500mもあるのに、目の前のそれはそこまで高さを感じさせなかった。3本の塔は左からTorre、Egger、Standhardtという名前で(Torreはスペイン語で塔という意味)、どれも蝋燭のようにあまりに垂直に立っている。夏でもクライマーを容易に寄せ付けないというのが良くわかる。
トーレ山のベースキャンプはここに位置するが、ここからも山は遠く、装備を積んだソリをスキーで引きずりながら氷河を進む写真を町でよく見かけた。
あ〜、山のピークにむしょうに登りてぇ〜。

翌日、僕らはフィッツロイ山目の前のPoincenotキャンプ場を目指す。ここも片道3時間の日帰り可能コースだったが、僕らはここに二泊することにした。フィッツロイの朝焼け夕焼けショットを狙うという理由だけで。
昨日と違い今日は400mの標高差があった(すなわちゼロ同然だが)。
しばらく進むと右手の大地が削げ落ち、切り立った斜面からは蛇行するVuertas川が広がった。その背後には雪を抱いた山々。先日この山をめがけてバックカントリースキーヤーとスノーボーダーを乗せたヘリが飛び立っていった。

出発から30分ほどすると、フィッツロイがピョコンと頭を出した。天気もあるが昨日よりもずっと良いコースだ。ひたすらひたすら、ひたすらフィッツロイだった。この美しい山へ向かって、なだらかな丘を登っては下り、川を越え、池を眺め、道は続いていった。
谷に降り川沿いに進むと、そこはツンドラの畑だった。

キャンプ場からはフィッツロイの大パノラマが広がる。
すごい山だな、と、ただ思う。たった標高3405mしかないこの山のどこがそんなに特別なんだろうと思ったりもしたけど、ここまで間近でこの山を目にするとそんなことは言ってられない。
どうやってあんな垂直で長い壁を登ることができるんだろう、すごいなあクライマーは。

朝から、そしてチャルテンに着いた日から続いていた強風がここでも容赦なく吹いていた。実際の気温よりも体感温度はずっと低い。テントサイトには風除けがこしらえてあったが、不思議なことにそれは全て一定方向だ。どうやら風は毎日、通年、同じ方向に吹くらしい。風のせいで何本もの木が斜めになってしまっている特異な光景もこの地方独特だ。あらためて、自然の力はすごい。

この日、久しぶりの大快晴だったのだが、油断した僕らは明日も大丈夫だろうとたかをくくってテントを張るなり眠ってしまった。
そして翌日、空は一面真っ白、曇り。晴れないかなあ、と寝ては起きて寝ては起きてで、寝袋から出たのはなんと2時。この日は歩いて1時間の氷河に言っただけで終わる。まあ明日晴れるだろういう、あくまで楽天主義で。そして・・・

翌朝、サラサラサラ〜とテントを打つ音で目が覚める。
テントから顔を出すと、空どころじゃなく当たり一面真っ白。ゆゆ雪だ!すぐ止むだろう、今日は曇ってても頑としてフィッツロイの目の前の湖まで行こう、と誓いテントの中で天候回復を待つ。しかし、1時間たとうが2時間たとうが雪は止む気配をまったく見せず、辺りはさらに真っ白になっていった。本降りだった。
怠け者の一日目の自分を諌めて下山することにする、残念。

雪の上を歩くには、「オメーなめてんじゃネーか!」的な靴を僕は履いている。サロモンのXaProという非常にいい靴なのだが、アドベンチャーレースの用途に開発された靴で、最重視するは速乾性と通気性。そして今日最も必要なのは正反対の防水性。
この靴は考えに考えて旅の途中で買った靴なのだ、いい靴なのだ。でも「アフリカの熱帯」のために考えた靴なのだった。まさか南米に、こんな雪の降る地に来るとは考えてもなかったよなあ。
そしてここで取り出すは、特許出願中ゴアテックスならず「ビニテーックス!」。
説明しよう、ビニテックスとはスーパーの野菜コーナーからかっぱらった、ぐるぐる巻きにしてある透明の袋である。すなわちビニール袋、サイズ小。しかもコストはゼロ。なのだ!
このビニテックス、今日みたいに寒い日は蒸れも起こしにくく、足先も濡れずになかなか快適であった。しかし二時間も歩き続けるとつま先が破れて水が漏れ出したのだ。むーん、今後耐久性が課題だね。

雪は下界でも降っていた。チャルテン村もかわいらしく真っ白に染まっていた。カフェに閉じこもって4時間もバスを待っている間、窓からは横殴りの雪が常に見えていた。
これを見て昨日までは雪がないと嘆いていたのに、急ににんまりしている奴がいた。それはスイスからパウダーを求めてやってきたプロのボーダー。
世界中変態はどこにでもいる、、、あーいいなあ!

僕はこのトレッキングで誓ったことがある、といってここで書いても仕方ないのだがね。日本と違って、海外の山歩きでは頂上を踏まないルートが多くある。これが日本の山だと(有名な山なら)すべてといっていいほど頂上が踏めるようになっている、時には鎖や階段まで付けられて。
しかし海外、僕がこれまで歩いたスイスやパキスタン、この南米アンデスの山は標高や雪氷河、険しい山容が一般登山者の登頂を拒むのだ。もちろん、親切に頂上まで鎖が付いているなんてことはない。
だから、1週間かけて歩いても一つの頂上も踏まないでただ峠に行って高い山を眺めているだけ的な登山ルートが多いのだ。果たして、これを「登山」と呼ぶのか?僕はやっぱり頂上まで登り、「ハイここがどこよりも上の場所です、よっしゃーーー!」的なことがしたいのだ。
帰ったらクライミングの技術を身に付けよう、と思ったのでした。

 

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