コスタリカ
日本人にとってあまりなじみのない国だ。僕にとってのコスタリカといえば、大学の友人がとある時期コスタリカ人と付き合っていたな、って印象くらいしかない。来る前はどんな国か全く想像もできなかった。
この国に入国する一日前にやっとガイドブックのページを開き、見開きの文章を読んで感じたのは「こんな理想的な国が存在したのか!」という驚きだった。
あくまでガイドブックによると、ということだが・・・
「コスタリカ‐中米の花園、中米のスイスと喩えられることもある。四国と九州をあわせたほどの小さい国。太平洋とカリブ海に無数の美しいビーチを持ち、国土の27%が国立公園などの自然保護区に指定され、そこには地球上の全動物種の5%、鳥類に関しては10%が生息。国民の環境意識も高くエコツーリズム、環境保護の先進国。平和憲法をかかげ、スイスのような中立体制、さらには軍隊の所有まで放棄してしまった非武装国家。」
なんて国でしょう!
でも完璧な国なんてないように、この国もいい噂ばかりではない。途中出会った二人の外国人旅行者によれば「コスタリカはどこにいってもアメリカ人のツアー客で溢れていて、まいってしまった」とのことだった。国が美しく政治も安定していて治安も良ければ、それだけ多くの観光客が来るということだ。そればっかりは仕方ない。
パナマから入国してきた僕は、バスから見える光景にすっかりやられてしまっていた。それはそれは噂にたがわず美しい国だった(まあ、夜行バスでパナマ側の景色が全く見れなかったので比べることもできないが)。
うっわー、住んでもいいかもって思った。
僕らはまず、というかコスタリカで最初で最後の目的地となるチリポ国立公園へと向かった。コスタリカ最高峰にして、美しいとかなりの評判のチリポ山を登るためである。
チリポへは、まず基点となるサン・イシドロへ行き、そこからのろ〜いローカルバスでサン・ヘラルドという小さな村へと向かうことになる。
サン・ヘラルドの国立公園事務局で山小屋の予約をして(キャンプは不可)、翌日山へと向かった。
チリポ山は熱帯のジャングルの中に聳える山。今は乾季ということだが、午後のスコールを避けるため朝早い時間に宿を出た。
村から登山道入り口まではダート道の登りを1.5km、徒歩30分。
ここから山小屋までは14.5km。道ははっきりしていて迷いようがない。しかも親切なことに1kmごとに標識がついている。
いきなりの急な登りだ。まずは畑のはずれを進んだ。なんの畑かというと、コスタリカならではの畑。なんでしょう?
コーヒーです。うーんおいしそう。
1kmほどですぐに樹林帯に入った。久しぶりのジャングルの中だった。アフリカのガーナやボルネオのジャングルを思い出す。昨日は雨は降らなかったのに、地面も葉っぱの表面も濡れている。朝露なのか、それともこれが霧の消えることのない熱帯雲霧林と呼ばれる場所なんだろうか。
とにかく、コケにしろシダ植物にしろ、カラフルな花や腐った木に植生するきのこなど、ここには数え切れないほどの生命がいた。そしてそこにこだまする鳥の鳴き声。黄色い鳥や青い鳥、ブーンと虫のような音をたてるせみのような鳥、そして木を突くキツツキ。
なんて空気がおいしいんだろう。
日本で育った僕には、やっぱりこの湿気が大量に含まれた空気が一番おいしい。
4km地点が正式な国立公園の境界線。ここまではけっこうな登りだった。ここから7kmの最初の山小屋(といっても水場があるだけ、宿泊は不可)までは比較的なだらかだ。そしてここからの3kmがなかなかの急斜面だった。
11km地点くらいから展望が開けるが、下から霧が上がってきて、辺りはあっという間にまっ白しろすけ。
ここからの1kmは花畑の中を行く。ピンク、黄色、紫と本当に美しい。柄にもなく写真をたくさん撮ってしまった。お気に入りは靴みたいな形をした黄色の花。
へへ、かわいいっしょ?
一度川まで下って、13km地点から14kmまで再びアップ。14.5km地点が今日の終着地、60人収容の立派な山小屋だ。山小屋に着いたとたんに雨が降り出した。午後のスコールだ、間に合ってよかった。
今日は土曜日なのでかなりの数の登山客がいた。外国人より地元コスタリカ人の方が多かったのが印象的だった。さすが環境意識の高い国だ、自然好きな人が多いってわけね。
翌日は4時半に起き、5時半に出発。なんで日本の山行並みに早いかっていうと、こりゃまた早い時間のほうが空がクリアな確立が多いからだ。空は明るく、山の向こう側ではすでに陽が上がっているみたいだった。
ゴウゴウと白い飛沫をあげて流れる川の脇を進み、30分で分岐。ここを左に曲がるのが重要とのこと。道はゆっくりと、コルをめがけて登っていく。しかし、残念ながらガスが出てきてしまった。
右手には大きな山が見え、てっきりそれが頂上かと思っていたら、コルにたどり着くと別の頂上が正面に見えた。頂上になにか人口的なものが立っているのが見えるので、そっちがChirripo山だろう。左手には美しいチリポ湖が見える。
このコルから斜面をトラバースして、チリポの頂上への稜線に取り付く。ここから山頂までは直登だがたったの15分くらいだ。
稜線を登り始めると同時に、神業的に、さっきまで辺りを覆っていた霧が一瞬にして消え出した。
「うおー!」と僕らは叫んだ。眼下には雲海が広がり、その雲海のなかに島のように別の山が浮かんでいた。カリブは無理だったが、西に太平洋も見える。
嗚呼、美しい。
7時15分、3819mの山頂に到着。さっき見えた人工物はコスタリカの旗だった。
一応、この国で一番高い山に登れたわけだ。頂上には誰もいなかった。どうやら僕らが本日最初の客らしい。
下りは1時間半、別のグループが続々と上がってきていた。どうやら1泊2日でこの山を登る人は少なく、大抵の人は2泊3日でのんびりと登るみたいだ。
山小屋で小休止し、再び下山に取り掛かる。今日は標高差2300mを一気に降りるわけだ。結構しんどい。
Km11を過ぎると、再びうっそうとした森の中に入った。下りは登りよりだいぶ心にゆとりがある。このジャングルの植生や生物をじっくりと観察しながら、のんびりと下った。
なんて生命に溢れている場所なんだろう。朽ち果てた15mくらいはありそうな大木が横たわっていた。そこにはもうコケやきのこが着生している。この木はその寿命が終わった後も、他の植物に生命を与えつつ、何十年もかけて徐々に徐々に土に還っていくのだろう。そうした自然のサイクルをこの森はどれだけ繰り返してきたのだろうか。
コスタリカには、こうした人間の手付かずの原生林がまだ残っているという。ただ、他の地域に違わず、この自然保護の先進国でさえ、環境破壊の手は着々と伸びている。人間とはなんて罪深い生物か、これだけの生命の宝庫を自己欲求のためだけに、いとも簡単に消し去ってしまうのだから。
今日の締めは温泉。山小屋から村までは5時間の下りだった。下に着くころにはふくらはぎがパンパンに張っていたが、懲りずにさらに30分歩いて温泉へと向かった。
残念ながら、水温はちょーぬるぬるだったが、管理がしっかりしていて水は透き通るほどきれい。日本では秘湯の部類に入るような場所だった。
やっぱり登山の後は温泉!これが一番。
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国立公園入場料は1泊10ドル、山小屋も1泊10ドル。USドル払い。
山小屋は定員制。予約はサン・ヘラルドかサンホセでしかできないが、サンホセで満員と断られても、サン・ヘラルドまで来てみると空きがあることが多いらしい。
サン・イシドロからヘラルドまでのバスは1日2本のみ、朝5時と昼2時。逆は7時と16時。所要2時間。
サン・ヘラルドは小さな村なので買出しはサン・イシドロでしたほうがいい。
国立公園事務局で地図の購入可、100円。
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