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さらなる試練 (イラン)
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テヘランに滞在中は好天に恵まれ、ぼくがテヘランを出ると雨は再び降り出した。どうやらぼくはこの国に嫌われているようだった。
 テヘランを抜けると、ぼくの走っている道はそのまま、オートバーン、高速道路となってしまった。しかもよりによって、料金所の前で警察官が検問をしているじゃないか。入り口には自転車禁止の標識が大きく掲げられていた。でもこの道を通らないと、また一旦テヘランの町に戻らなければいけないことになってしまう。あんな町2度と行くのはごめんだ。よし、ものは試しだ。
「サーラム」
 偉そうな警官を選んで、ぼくは微笑んで挨拶した。
「ぼくは日本からわざわざやってきたんだ」
「日本人か?」
「そうだよ、これから自転車でさ、イスファハンまで行かなくちゃいけないんだ、ところでさ、イランはいい国だね。ぼくはイランが大好きだよ」
 彼はうれしそうに笑った。
「遠いからもう行かなきゃ、行っていいよね」
「いいぞ、いいぞここを通って行きなさい」
 そういうとわざわざ料金所の係員まで言付けに行ってくれた。そしてぼくはその快適な高速道路をスイスイーっと快適に走る。
 しかし半日も走っていると、パーキングもサービスエリアも、休憩するとこが何もない退屈極まりないこの道路に嫌気がさし、フェンスの隙間から外に出て、オンボロな一車線道路を走ることにした。

 道は山間部をうねるように走ったりするけど、小さな村がたくさんあるし、飯も食えるし、お茶も飲めるし、疲れれば道端に座れるしこっちの方が全然いいや。ガソリンスタンドを見つけたので、ガスストーブ用ガソリンを購入することにした。600ミリリットルの容器にガソリンを入れてもらい、お金を払おうとすると、スタンドの主人はいらないという。そんなちっぽけなくらい、無料だと言っているようだ。車にガソリンを入れていた青年は、うっかりガソリンを溢れさせ、ドボドボと地面に垂れ流しながら笑っていた。あとで聞いたところでは、なんとガソリンは1リットル5円、さすが原油産出国なのだ。

 相変わらず夜はテントに泊まり、朝食と夕食は自炊し、昼はケバブ屋かサンドウィッチ屋で飯を食った。ケバブ屋でのメニューは白米と羊肉の「チェロケバブ」、白米と鶏肉の「チェロモルグ」、白米とカレー風スープ「チェロホレシュト」の三種類しかなく、サンドイッチ屋といっても、数種類の肉を選んで、それを鉄板で焼いてもらい、ケチャップとピクルスと一緒に食べるというバーガーもどきの代物だった。都市を抜かしたイランでの外食はこれが全てと言っても過言ではない。
 昼は食堂で食べると決めていたので、ちょうど昼飯時に町と町の間にいると、それから2、3時間も昼飯抜きでこぎ続ける破目になることもあった。それほど町から町の間隔は広かった。
 かわりにチャイハネと呼ばれる茶屋だけは、どこにでもあったので、疲れるとそこでお茶を飲みながら休んだ。アジア各地でチャイと呼ばれるこの紅茶は、ここイランではトルコとはまた違った飲み方をした。トルコでは小さなグラスに入れる以外は西洋と同じ飲み方だったが、イランではポットに入った紅茶が、角砂糖と一緒に出てきて、カップに紅茶を注ぐと、砂糖は何とそのまま口に入れ、後から飲む紅茶と口の中で混ぜるのだ。
 最初は奇妙に感じられたこの飲み方も、実際やってみると口の中で砂糖が程よく溶け、なかなか調子良かった。ただ一つの難点はどうしても砂糖を採りすぎてしまうことだった。しかし、その砂糖も疲れた体にはとてもいい薬だった。

 行けども行けども、目の前には雄大な景色が広がっている。山の間をきり抜け、坂を登り峠を越すと眼下に広大な砂漠が広がる。そこには何もない。ただ一本の道が伸びているだけだ。
 どこから、どんな素人が写真をとっても絵になるような風景がまるで永遠のように続いた。ぼくの卑わいなボキャブラリーでは、この情景をとてもじゃないが言葉にはできない。

 時々通過する町で夕飯の買い物をした。パン屋で、ナンを買う。焼きたては格段に旨いのだが、ぼくが夕飯を作る時間になると、それはしなびてただの小麦粉の固まりと化すのであった。それに卵6つに、米、ヤギの乳からできたチーズ、トマトにピーマン。商店から出てくると、ぼくの自転車の周りには人だかりができていた。それは毎度のことだった。観光客など一人もこないような小さい村では、突然自転車にまたがってやってきたぼくは、ヒーローかタレントのようだった。いつも30人以上の人間に囲まれ、自転車をペタペタ触られた。

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