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さらなる試練 (イラン)
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結局1日休養を取ってみたものの、動悸は収まらず、無理を押して出発する。イスファハンでヴィザを2週間延長できたとはいえ、まだまだ先は長いのだ。のんびりしているとこの国にいられなくなってしまう。
 今日は快晴、引き続き左には地平線、右手には山という景色である。こげどもこげども景色は変わらなかった。砂漠の中を走っていた。誰もが想像する砂の砂漠ではなく、岩漠とでも呼ぼうか、石が転がり、枯れ草が生えている荒れた地だった。ステップ気候、砂漠気候、果たしてどちらだろうか。いくつかの橋を超えたが、どの川もみんな干上がっていた。イスファハン以降潤った川を見た覚えがない。だいたい水などないのに橋があること自体が不思議だ。こんな乾燥した土地に水が川となって流れることなどあるのだろうか。最近は雨に降られることもなくなっていた。しかし日が落ちてくると、朝の雲一つない空とうって変わって遠くに灰色の雲が見える。

 今日はアナールと呼ばれる町まで行く予定だったが、想像していたより遠く、夕方になり目的地に辿り着けないことがわかると、名もわからないような村で夕食用に鶏肉と卵、タマネギを買った。今日も野宿である。
 その村を出ると、辺りは再び無人の荒野となった。もう太陽は見えなくなっていた。それなのに辺りは何の障害物もない見晴らしのいい大地で、いくら適当な野営場所を探しても見当たらなかった。
 先に行けば、先に行けば適当な場所があるかもしれない。しかし進めど場所は見つからず、ただ暗闇が迫るばかりであった。こんな荒野でテントを立てて、明かりを付けたら怪しいだろうなー、危険だろうなあ。
 でも今日はどうしても明かりを付けて料理をしなければいけなかった。なんせ今晩の夕食は親子丼を作ろうと決めているのだ、材料だって買ったしさ。
そうだ!橋の下、橋の下だ。
 スペインでやっていたように橋の下に眠れるじゃないか。こんなに乾燥しているんだ、雨は降らないだろう、川の水が流れてくることなんてありえないさ。でもさっき遠くに雨雲が見えた気がしたんだよな、大丈夫だろうか。

 迷っている暇はなかった、もうすっかり暗くなっていた。ぼくは適当な橋を探し始めた。だがいざ探すとなると、どの橋も川幅が狭すぎるためか、テントを張るには地面から橋が低すぎてなかなか決まらない。やっと見つけた場所も幅は広いが、高さはぼくがやっと立てるくらいだった。
 この名もない橋の下にテントを張ることに決めた。アナールの20キロ手前だった。
 地面は乾燥しすぎてか、いくつもの亀裂が入っており、その固い地面にテントのペグを刺すのは大変だった。よっぽど雨が降っていないんだろうな。じゃあさっきの雲も思い過ごしだろう。              
 テントを立てている最中に、なぜか最近感じるそわそわした胸騒ぎを感じた。
「ここは止めたほうがいいのかもしれない」
 そんな考えが一瞬脳裏をかすめた。かといって、この暗闇の中で、再び野営場所を探しまわるのは無理である。「道路の下にあるんだから、誰からも見えない、大丈夫」そう自分に言い聞かせた。
 〈カサッ〉
 近くで物音が聞こえた気がした。誰かいるのだろうか。作業を止めて耳を澄ましてみたが、もう何も聞こえなかった。
「ここは止めたほうがいい」
 再びその言葉が浮かんだ。きっと妄想だ、ここ最近の胸騒ぎが自分を臆病にしているだけなのだ。そう思うことに決めると、自転車から荷物を外しテントの中に投げ入れた。

 夕食は親子丼!なかなかの上出来、日本の両親が送ってくれたインスタントみそ汁を飲みながら食う。久しぶりに心が日本へと飛んでいた。日本はいい国だよなあ、としみじみ思う。
今日は満足満腹、さて寝るとするか。
 しかしこんな日に限ってなかなか眠れないのである。テントの天井を見つめながらしばらくボケーっとした。満足したのにこの落ち着かない気持ちはいったい何なんだろう。今日は128キロもこいだし、体も疲れているし、いつもだったらすぐにでも眠れるんだけどなあ。
 〈カサカサッ〉
 テントの外で奇妙な音がした。まるで誰かがいるみたいだった。ドキドキしながら耳を澄ましたが、どうやら風のいたずらだったみたいだ。
 〈カサツ〉
 まただ、何なんだろう。なんか怖いな。今日は風が強いんだろうか。不気味な音に怖がりながらも、ぼくは寝袋の中で眠りに就いていった。


 〈ポチャポチャ〉
 水の音がするなぁ。
 〈ポチャッ、ゴポゴポ〉
 変だなあ、なんでだろー・・・果たして夢の中の音なんだろうか。夢か現実か定かでないまま、ぼくは薄っすらと目を開けた。
 確かに水の音が聞こえる。雨が降ってきたのだろうか。さっきのはやっぱり雨雲かなあ。大雨だったら川に水が入るかもしれないからテントを移動しなくちゃな。
 まだ寝ぼけながらも、空の様子を確認するためにぼくはテントのジッパーを開けた。
 そして一気に目が覚めた。そこにはできることなら夢であって欲しい現実の世界が広がっていた。頭につけた懐中電灯に照らされたテントの外には、泥の色をした水が広がっているのだ。
「川に水が流れてきている!」
 外に置いておいた靴と、鍋はすでに流されてしまっていた。
「どうしよう、どうしよう」
 頭の中が錯乱した、だが躊躇している暇はないのだ。ぼくは跳ね起き寝袋から出ると、フリースにパンツ、裸足という格好で外に出た。雨は降っていなかった。それどころか星さえもきれいに見える空だった。じゃあ、この水はいったい何なんだ。砂漠の夜の空気は冷たく、水に浸かった足からも冷気が伝わってきているはずだったが、興奮状態のため寒さは感じなかった。
「急いで荷物を運び出そう」
 ぐるぐると頭の中を思考が駆け巡り、ぼくは一体どうしていいのかわからなかった。それでも一番重要なもの、カメラ、現金、トラベラーズチェック、パスポートなどの全ての貴重品が詰まったハンドルバッグから外に運び出す。泥で滑る川底を歩きながら、バッグを橋の袂の乾いた地面に置く。
 これなのだ、ずっと感じていた胸騒ぎはこれだったのだな。ぼくは初めて人間には、そしてこのぼくにも第六感というものがあるのだと確信した。
 感心する間もなく、水はみるみる水位を上げていく。バックを置いてテントに戻ると中は水浸しになっていた。水浸しというより泥水浸しだった。泥水の中を手探りで荷物を掴み、適当なものに積み込み橋の袂へと運び出す。次に自転車を運ぶ。
 水は依然水位を上げ、流れも速くなっていった。あまりの水の勢いに荷物を運ぶ速さが間に合わないと覚り、テントごと運ぶことにする。考えている暇などない。ペグを抜くとテントは流れに乗り川下に流されそうになった。必死で掴むが、地面が滑る。体ごと引きずられそうになりながらも、何とかテントを半分だけ陸に上げた。残り半分は必死に持ち上げようとしても、泥が詰まって持ちあがらなかった。
 ぼくは途方に暮れた。どうしていいかわからなかった。今日はどうやって寝ればいいのだ、全て濡れてしまった。そしてここは砂漠の中、夜は寒いのだ。町まではまだ20キロもある。誰か助けにきてくれー。
「助け!」そうだ助けを呼べばいいのだ。そう思うとぼくは裸足で道路にかけより、必死で懐中電灯を降った。交通量は少なかったが、3台目のトラックがなんとか止まってくれた。
 助かったー。
 ぼくは急いで50メートル先に止まったトラックへと駆け寄った。窓が開き、太った顔の髭を生やしたおじさんが顔を覗かせた。彼はぼくを見た瞬間、まるで幽霊でも見たかのようにギョッとした。
「助けてほしいんだ。えーっと、寝てたら、急に流されて、いろいろ流されて、テントが持ち上げられなくて、それでそれで・・」
 頭の中が混乱していた。
「ノー、スピークイングリッシュ」
 ぼくを不思議がって眺めた後、彼は明らかに迷惑そうにこう言った。今にもここから去りたいみたいだった。
 そりゃあ怪しく思われても仕方ないか。こんな砂漠の誰も住んでない場所で、いきなり変な東洋人が現れ、おまけにそいつはパンツに汚いフリース、下は裸足で泥塗れときている。
 それでもあきらめずに助けを求め続けると、ぼくがよほど情けない顔をしていたのか、車から降りてきてくれた。
「あのテントを引き上げるのを手伝ってほしいんだよ」
 そう言ってテントを指差すと、彼はテントに近づいていき、外側から荷物の膨らみに触った。
「人か?」
「違う違う、ただの荷物だよ」
「人じゃないんだな」
「違う」
〈ビリビリー、ブチッ〉
 テントを持ち上げると布が引き裂かれ、金具が取れたような音がした。テントが完全に陸から上がると、彼はまだ荷物の膨らみを人だと疑っているのか、首をかしげながらテントを見つめていた。
このテントはもう使用不能かもしれないな。
 そうだ、そういえば貴重品は無事だろうか。最初に急いで橋のたもとに上げて放置したままだ。ぼくは急いで反対の岸を調べに行った。しばらく探すがどこにも見当たらない。いったいどこに置いたっけなあ。嫌な予感がする。どうしよう。
 後ろを振り返ると先ほどの運転手がいなくなっていた。ぼくを見捨てて置いていってしまったのか。心細くなりながら、トラックの方を見ると、まだ彼は出発していなかった。その代わり先ほどのトラック他に、もう一台別のトラックが見える。
 心細くなり裸足でトラックへと駆けつけると、道路にはつい先程は見あたらなかったおびただしい数の材木が散乱していた。助けてくれた運転手のおじさんが、背の低い男とペルシャ語でもめていた。

 どうやらこういう事らしかった。最初に止まってくれたトラックのハザードの光が弱すぎて、後ろから来たもう一台のトラックに追突されてしまったのだ。

 全てがもう悪夢のようであった。

 もう一台のトラックの背が低い運転手は、逆上しながらぼくの方へと歩み寄ってくると、ペルシャ語で声を張り上げ怒りだした。
「一体どうしてくれんだ、えー!おまえがこんなとこで何かしているから悪いんだろ、全ておまえの責任だ」
 こうでも言っているようだった。
「わるかった、わるかった。すべてぼくが悪いよ」
 投げやり気味にそう言うと、ぼくはハンドルバッグを探しに橋へと歩き出していた。あまりにもいろんなことが突然起こりすぎて、体に力が入らなかった。冷えきったはずのアスファルトからも、冷たさなんて感じなかった。
 ひょっとしたら、このままバックまで見つからないんじゃないか。そしたらどうしよう。途方に暮れるだけだな、ハハハ、ぼくは歩きながら考えた。そしてその考えは実在のものになってしまった。
「ない、どこにもない」
 いくら探しても、どこを探しても、貴重品を詰め込んだバッグは出てこなかった。川に足まで浸かり底をさらってみたがあるわけがない。
 流されてしまったのだ。
 一番最初に慌てて適当な場所に置いたため、水かさが増え、流れにさらわれてしまったのだ。ぼくは諦めきれずに長い間、周囲を手探りで探していた。するといつの間にか優しい運転手がそばに寄ってきてぼくの肩をたたいた。
「もうすぐ警察が来る、それまで向こうで休んでいよう」
 現金も、クレジットカードも、トラベラーズチェック、そしてパスポートさえも失ってしまったのだ。そしてカメラにフィルム、日記、これまでの思い出までも。絶望的だ・・・

 究極・・

 きっとこういうのを究極の状態というのだろう。

 運転手は砂漠にわずかに生える枯れ草みたいなものにガソリンをぶっかけ、それを目印に道路を通る車に、アナールを通ったらここに警察を呼ぶように言ってくれと訴えていた。
ぼくはトラックの助手席に腰かけガラス越しに広がる暗闇の中の荒野を眺めていた。時折車のライトが見える。頭の中は真っ白だった。
 もう無理だな・・パスポートも、金も一銭もなくどうやって旅が続けられるのだろうか。
帰国か。
 日本に帰るのか。
 家族や友達の顔が浮かんだ。あんなに生きて帰れないと思っていたのに、生きて帰れるじゃないか。これからは何にも怯えるまでもなく、自宅のベッドでグッスリと眠れるのだ。それが夢だったろ。そう思うと胸に安堵感が込み上げてきた。
 しかし、急に日本で仲のいい友達の声が聞こえた。「何で帰ってきたの、どうしたんだ?」
「ルーザー」と言う言葉が頭を過ぎった。
 ぼくはスペインの友達にこう言ったのだった。「ぼくは決して諦めない、負け犬にだけはなりたくないんだ」と。
 しかし、しかしだ。もうどうしようもないのだ。
 このまま帰るのか?
だって帰るしかないだろ、貴重品はすべて紛失、道具だって何が残っているか分からない、全てが泥にまみれテントだって壊れているかもしれない。
 だめだ、帰ってはだめだ。今日本に帰って何が残るというのだ。
 そうなのだ、「ぼくはまだ、シンガポールに着いていない」
 それだけは紛れもない事実だった。

 こんなところで止まってはいけない、こんな事であきらめてはいけないのだ。ぼくは負け犬にはならないぞ!
 何とかテヘランに帰ってパスポートの再発行を受けよう、トラベラーズチェックも再発行すればいい、当面必要なお金は送金してもらおう。荷物をチェックして足りないものも何とか送ってもらおう。
 時間はかかるかもしれないけど、これは乗り切らねばならない試練なのだ。
 負けるな、頑張れ、諦めるな、そう自分にいい聞かせる。ぼくには行かねばならないところがあるのだ、進め、ただ前に進め。

 一時間も経つと警察がやってきたので、ジェスチャー混じりで何とか事情を説明した。すると警察官の一人が無線で軽トラを呼び出し、トラックが来るとその荷台にぼくの泥だらけの荷物が放り投げられた。髭ずらの運転手に厚くお礼を言うと、パトカーはアナールへと走り出した。
 真っ暗な警察署に着き、ぼくの荷物は無造作に地面に放り投げられた。ぼくはパトカーへと乗せられたまま、住宅街へと連れていかれた。
「今日はこの家で寝ていいから」
 パトカーの助手席に座っていた、階級の高そうな警察官が言った。そしてぼくをシャワー室へと案内し、服まで貸してくれた。今日はまだ夜勤だからと言うと、ぼくを残して出ていってしまった。どうやら親切にも自分の自宅に泊めてくれたようだった。
 外から鍵をかけられると、家からは一歩も出れなくなった。まるで檻に閉じこめられた子犬のようだった。ぼくはクーンクーンと叫んだ。自分のミスが悔しくて悔しくて、情けなくていつまでたっても眠ることができなかった。いつまでも同じ言葉を頭で繰り返した。「なぜ、なぜよりによって一番大切な荷物だけを失ってしまったんだ」と。

 翌朝、そのナジャフィという警察官が帰ってくると、その足でぼくは昨晩、荷物を置いた警察署へと連れていかれた。小さい建物だったが、中に通されると太った偉そうな男が出てきて、さっそく調書を取り始めた。
「とにかく日本大使館に電話させてください」
 パスポートもお金もまったくないぼくが頼れるのは大使館しかなかった。ぼくは何よりも先に大使館に電話したかった。しかし、そのデブっちょは英語がまったく分からないのか、いくらそう言っても聞いてもらえなかった。
「日本大使館だ、この番号、ここに電話がしたいんだ」
 番号を見せると、彼はやっと口を開いた。
「テヘランか」
「そうです、電話を借りますよ」
 半ば強引に、机の上の受話器を持ち上げた。すると彼は、受話器をぼくの手から引剥がし言い放った。
「長距離電話は禁止だ。どうしてもしたいなら隣のラフサンジャンで掛けろ」
 なんて理不尽な。隣町までは100キロも離れてるのだ、それにぼくは一銭も持っていないのだ。だが、いくら頼んでも彼は耳を貸そうともしなかった。
「じゃあ、昨日の場所に連れていってほしい。お願いです」
 昨日流れてきた水は自然の水じゃない。空は晴れていた。雨が降ったわけではないのだ。ぼくはそう確信していた。ぼくはイスファハンで乾燥を防ぐためにと、週に一度水路に水を流していたのを思い出した。ここでも乾燥を防ぐために水門を上げたのに違いないのだ。だから、もしそれが一晩だけのものだったら、今日には川は再び干からびているはずだ。そして、可能性は少ないが、万が一ぼくのバックがどこかに引っかかっているかもしれない。それがぼくの推論だった。
「何か見つかるかもしれない、頼むから連れていってくれ」
「だめだ」
 太った男がそういうと、彼の隣にいた若い男が、どうやら助け船を出してくれているようだった。しばらくペルシャ語で話し合いが続き、デブっちょは言った。
「今はだめだが、3時になったらこいつが連れてってくれるそうだ」
「ありがとう」
 ぼくは心からお礼を言った。では、それまでに、泥にまみれた荷物を洗うとするか。残り物の確認もしなきゃな。
 ぼくの荷物はすべてが惨めなほど汚れていた。一つ一つを手に取り、確認しながら丁寧に洗っていった。洗っている間も、常に数人の警察官に囲まれあれをくれ、これをくれと強請られた。

紛失―時計、鍋、カップ、靴、地図、サイクルコンピューター、計算機、ハンドルバッグ(中には現金、カード、T/C、パスポート、カメラ、ウォークマン)、日記、行程表
故障―テント(メッシュの破け、ペグの紛失、金具取れ、ポールの曲がり)、ガスコンロ

 調べてみるとこのような結果だった。これならお金さえあれば、なんとか旅は続行できそうだった。あとは、バッグが見つかるのを願うばかりだった。バックに関してはもうあきらめがついていた。ぼくはテヘランに帰り、一からやり直す決心ができていたのだ。

 4WDの荷台に乗って、昨日の川床へと向かった。川にはもう水は流れてなかった。やっぱり予想は当たった。それにしても、なんで昨日に限って水を流すんだ。
二人の警察官は歩きながら探してくれ、ぼくを荷台に乗せたまま、車は川の側を下りながらゆっくりと走った。目を凝らすと、ぼくの靴の片割れが泥に埋まっているのを発見した。歩いていた警官は電池や、空き缶を拾ってきた。間違いない、ぼくの物だ。ある、きっと見つかる、ぼくはそう確信した。

 さらに15分ほど進むと、遠くの方に泥から突き出た青い物体を見つけた。あの色、あの角張りよう、あれだ、あれに違いない。
「あったあった、あれだよ!あそこだよ!」
 そう叫びながらぼくはトラックから飛び降り、駆け出していた。足を泥に埋めながらその物体に近づくと、力を入れて泥から手で引き上げた。
「あったー、あったあった。これだよー!」
 ぼくは歓喜の叫びを挙げた。中身も当然のごとく泥塗れだったが、電化製品以外は洗って乾かせば大丈夫だろう。警察官たちが駆け寄ってきた。
「これか、いやーよく見つけたな、よかったよかった」
「ありがとう、ありがとう。よし、よし、これで旅が続けられるぞー!」
 何という幸運か、これで前に進めるぞ。ツキは終わっていない。終わりよければ全て良しかな。ぼくは神様に感謝した、ありがとう。

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