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アジアへ (トルコ)
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今日はついに国境の町へと着くのだ。トルコ入国32日目、長かったな。思えば後半は嵐のように悪いことが重なったなあ。
 ヨーロッパを走っていた時は本当に幸せだった。
ここでは毎日1000メートルは登る山道。凍えるように寒く、毎日毎日雨が降る。相変わらず乱暴な運転のトラックにあおられ、言葉はまったくといていいほど通じないし、大きな町は少なく食料を買う場所も限られている。犬に追われ子供に石を投げつけられ、軍隊は多く、軍人とクルド人ゲリラ両方の存在におびえながら走らなければならない。夜も野宿をしては不安で寝つけず、何時か死ぬのではないかという考えばかりが頭を過る。
 もうこれが、「ボトム」だ。
 この状態が一番下でこれ以上は悪くならないだろう。ぼくはそう確信していた。イランに行けば砂漠があるくらいだから、温かく平らな土地だろう。これが最悪の地点で、これから旅は向上の一途だろうと。

 いつものように黙々と坂を登っていると、峠の頂で検問をやっている。
「止まれ止れ。どこから来たんだ」
「日本だよ」
「パスポートだ、パスポートを見せなさい」
パスポートか、奥にしまっちゃたっけ。面倒くさそうにのんびりと探していると
「いい、見せなくていい」
 と警官は言った。しかし右手をこっちに差し出している。
「その代わり、タバコ。タバコをくれ」
「タバコ?タバコは吸わないんだ。もう行くよ、じゃあね」
 待て、止まれと言う声を後ろにしながら、ぼくは手を振りながら走り出した。
 その峠を超えると、急に目の前に巨大な山がそそり立った。
「アララット山かな?」
 富士山に似た形をしたきれいで雄大な山だった。そのスケールの大きさからいって、まずアララット山に間違いはないだろう。トルコ国境にそびえる、ノアの箱舟伝説がある標高5122メートル、神秘の山。
 もう、イランは近いんだな。
 アララット山はその姿を雲の中に隠すことが多いという。今日は久しぶりに雲一つない快晴。その神秘的な山が、ぼくのトルコ最後の町ドゥーバヤジットへの到着を祝福してくれているようだった。

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