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アジアへ (トルコ)
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「アッラ――――!」
 大音量で響く、お経のような歌で目がさめる。「ああ、コーランか」きっと近くにモスクがあるのだろう。窓の外はまだ真っ暗だ。これが一日に5回流れるというコーランの、夜明け前の最初の祈りなのだろう。うるさいうるさい!そう思いつつも、ぼくは今異文化にいるんだということを体の底から実感し、微笑みながらその音楽に耳をすました。それにしても、なんとまあ強制的な宗教なんだ。
もう一眠りして起き、長袖に長ズボンの服を着る。今日はイラン大使館に行くのできれいな格好をせねばならない。
 外に出ると空は気持ちがいい青色で、すぐそこには有名なブルーモスクが見える。イスタンブールは今日も快晴である。

 路地を抜け、ブルーモスクとアヤソフィアの間を通り、繁華街へと出る。繁華街というよりはお土産通りだ。観光客用のレストランに、小物雑貨、絵葉書売りに、絨毯屋。その前を通りすぎるごとに声がかかる。
「コンニチハ」
「ヤスイヨ、ミルダケタダネ」
「ジュウタンミテク?」
と、こんなのは序の口だが、中には
「パスポートオトシマシタヨ。ウソ」
「バーカ、チンコ」
 なんてたちの悪いのもある。ぼくはまだここに来て日が経っていないので、笑っていられるけど、この土産物屋のトルコ人に対して長期旅行者たちはかなりいらついていた。そりゃあ毎日毎日この通りを通る度に、こんなに失礼に呼び止められたら頭にくるわな。
 イスラムの国なので、コーランが流れる時間になると、道端にじゅうたんが引かれ、そこにひざまずいて祈っている人を多数見かけた。「ここはイスラムの国なんだな」と改めて思うと、顔をスカーフで覆っているおばさんの横を、若い女性がジーンズにTシャツという姿格好で歩いていて、「ここにも西欧化の波が打ち寄せてきてるな」と思ったりもした。

 10分ほど歩くとイラン大使館に着く。果たしてヴィザはくれるのか、これは大きな問題だった。ヴィザをもらえなければ、イランは飛行機で飛び越さなければならないのだ。イランのヴィザに対しては様々なうわさがあった。
 トランジットヴィザ(通過ヴィザ)の5日間分しか発行してくれない。正装して行ったら簡単にもらえた。美術や遺跡を研究していると言えばもらえる。10日も待ったのに結局もらえなかった。係官の機嫌が良ければくれる。このように情報は入り乱れていたので、どれもが本当の事のようにも聞えたし、またどれもが嘘のようにも思えた。

 日本でイランのヴィザを取ることは不可能だった。出発前に実際にイラン大使館へと行くと、イランに友人がいない限り、観光ヴィザの取得は不可能だといわれた。旅行代理店に頼めば取得可能のようだったが、それには5万円もの大金を払わなければいけないらしく、ヴィザの有効期限もぼくには間に合わなかった。
 日本にいたときは行けば何とかなるかもしれなと、勝手に思いこんでいたが、先のギリシャのイラン大使館にも足を運んでみたが取得不能だったので、不安は募るばかりだった。

 大使館の前で警備員の検査を受けいざ中へと入ると、そこはまるでアメリカの銀行のように防弾ガラスの中に係員が座っていた。
 申請用紙を貰いそれに書きこむ。
「なんでヴィザをくれないんだ!」
 隣にいた西洋人が、ガラス越しの係官にいきなり叫びだした。どうやら幸先が悪いようだ。彼は吐き捨てるように汚い英語を連発するとドアを蹴って出ていった。

入国日数―2ヶ月
渡航目的―観光、自転車で横断すること。
種類―観光ヴィザ

 そう書きこみ、なるべく人がよさそうな顔の係官を選んで用紙を出した。その髭の生えた係官は厳しい目でチェックする。
「駄目だ、2ヵ月もあげれるわけがない」
 係官はムスッとした顔で言った。
「でもイランはとても広いし、すごくいい国だと聞いているので、ぼくは時間をかけてゆっくり見たいのです。」
「それでも駄目だ、2週間だ」
 旅行者の噂とは違い、トランジットヴィザじゃなく観光ヴィザが貰えそうだ。後もう一息
「2週間では自転車で横断できない。ぼくはすべて自転車で行きたいのです、最低でも1ヶ月はください」
 彼は考え込み、用紙を持って個室に入っていった。ドキドキしながら待ち、10分後に戻って来た彼はこう言った。
「じゃあ、3週間。これが限界だ、後は現地で延長しなさい」
 現地では2週間延長できると聞いている。あわせて5週間。それなら急いでこげばなんとか間に合いそうだ。
「では10日後にヴィザを取りにくるように」
「10日?」
 ビックリ仰天である。10日もここイスタンブールにいなければならないのか。それは長すぎる。いったい何をしてろと言うのだ。急いでいるのでもっと早くしてくれと頼むと
「んー、じゃあ8日。8日後に来なさい」
 なんていいかげんなのだ。これが大使館員だなんて、つくづくいい加減なお国柄だなー。ヴィザ代は50ドル、宿代のちょうど10日分だった。そう考えるとやたら高いけど、ヴィザが取れたことだけでもよしとしよう。これでとりあえずヨーロッパからパキスタンまで道はつながったのだ。
 後8日もここイスタンブールにいなければいけないのかと思うと、市内観光する気が急激に失せてしまい、ひとまず宿に帰ってのんびりすることにした。

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