翌日、この湖で出会ったロバートというイギリス人と乗馬を楽しんだ。天上の湖、カラクリ湖で僕らはモンゴル人にでもなった気がした。馬はキルギス遊牧民に借りた「咳き込む老馬」。ちょっと走るとぜーぜーと息を切らし、ゴホゴホっと咽せてしまう。しかし、無情にも僕は「ハイ!ハーイ!」と叫びながら、馬の脇腹を蹴り草原を駆け抜けた。ヤクがうっとおしいようなボケた顔を僕らに向けた。

カラクリ湖を出発する日、空は晴れ渡り、湖の向こうには初めて顔を見せた、りりしいムスダーグアタ、そのすぐ隣にはのっぺりとしたコングール峰が微笑んだ。
ついに道を下るのである。ここからゴールまでは、もう登るべき峠はない。
カシュガルまではロバートと行動を共にすることにする。今回彼は中国国境の町、タシュクルガンまで中国側からバスで行き、そこを自転車で出発し、僕と同じルートをたどり最後はホータンという町まで、800kmをこぐ予定だという。
僕らは、ただただ絶景の中、ペダルもこがずにポカ〜ンと口を開け、キョロキョロしながら谷の合間を下っていった。
ここには地球上の全てがあるかに思えた。米国ユタ州のような赤い岩山、ヒマラヤにひけをとらない雪を抱いた稜線、駱駝や山羊が悠々と歩くモンゴルのような草原、そしてタクラマカン砂漠の灰色の砂。
道では駱駝や羊、山羊によるうんこまみれの大渋滞が起こっていた。あまりにも景色が良くて、僕らは全く前に進めなかった。
「ロバート待ってくれよ、あそこを写真に撮らなきゃ」
「タク、あれも撮らなきゃ。」
「お前のこと撮ってやるよ。」
「お前こそ・・」
「おいおい、いつになったら進むんだい。」
しかしその絶景も楽しめたのはたったの1日。翌日、山は消え、遙か彼方まで見渡せるタクラマカン砂漠の端にのびる平坦な道となった。人生とは儚いものである。しかし、その一瞬の輝きのためにぼくらは生きているのだ。

緑で潤うオアシスの村をいくつか通り過ると、その中で西南部最大のオアシス都市に到着。カシュガル、ここは中国西の果て、古えからのシルクロードの中継点、そしてウイグル民族の街。
「You completed Karakoram High Way!」ロバートが叫んだ。Complete。そうか確かに僕はギルギットからこのカシュガルまで、自らの夢であったカラコラムハイウェイをこぎきったのだ。そして今回の旅はこの地で終わったのだな。

しかし、ここには新たな旅の始まりがあった。
「カラコラム・ハイウェイか〜・・・」ロバートは何度も羨ましそうに呟いていた。その翌日、彼は宿に戻ってくるなり、うれしそうに言ったのであった。
「タシュクルガンまでのバスチケットを買ってきたよ。予定は変更だ。Fuck China! 俺はカラコラム・ハイウェイへ行く。」
僕があまりにもカラコラム・ハイウェイのことを褒めちぎるので、どうしても行ってみたくなってしまったのだという。
ロバートは言った。
「俺は山も自転車も大好きだ。今カラコラム・ハイウェイという夢のような場所にこんなに近いところにいるのにここで行かなかったら、山が好きでエベレストの横に住んでいるのに決してカーテンを開けて山を眺めようとしないようなものだ。」と。
そして彼はカラコラムの切り立った山の中へと消えていった。 |