クスコを後にし、首都のリマさえとばし、バスで30時間もかけやってきたのが、ここワラス。ペルーのアンデス山脈の中核をなすワスカラン国立公園の麓にある町である。
ここのCordillera Blanca山脈はペルーのアンデスの中核ならず、南米の全アンデスの中核をなすと言われることも多い。なぜかというと、ここには標高6000mを超える山が27座もあるからだ。
だとしたら、標高的にネパールとインドのヒマラヤ山脈、パキスタンのヒンドゥークシュやカラコラム、中央アジアのパミールに次ぐ高山地域ということになるかもしれない。
でも標高6000mを越える山なんてこのアンデスにいったいくつあるんだろうか。
すごいな、と思うのは、実は標高6000m超の山を登りたかったら大体によって、先述した一部アジア地域か、この南米に来るしかないのである。アジアのエベレスト、北アメリカ最高峰のマッキンリー(デナリ)6194mを除いて、他の大陸の最高峰は全て6000m以下である。
このワスカラン国立公園で、キャンプをしながらのトレッキングをしようと思っていた。ここでもっとも有名なのは4日間のSanta Cruzと呼ばれる、山塊をぐるりと周回するトレッキングや、OlleroからChavinへの3日間のトレッキングだ。「山をぐるりと一周」、なんかどっかで聞いたことがあるなあ。ガイドブックには、このトレッキングで「見える山」は一日目がこれ、二日目はこれ、なんて書いてある。そう、このSanta Cruzのトレッキングは4日間も費やすくせに、たった4500mの峠に登るだけで、一度も頂を踏まないで終るのだ。Chavinも同じこと。
確かに美しく、すばらしいトレッキングなのだと思う。
ただ、ボリビアであんなに高い山を登ってしまった後、僕には違う欲が出てきてしまっていた。どうせトレッキングするならやっぱり頂上まで行きたいのだ。
ということで、この山見的トレッキングは止めることにした。
代わりにこの地域で随一の美しさを誇る、標高4450mにあるChurup湖に日帰りで行くことにした。(ちなみにこの地域のクライミングのベストシーズンは6月から9月まで。今はもう雨季に突入し、高所登山をする人はほとんどいない。)
朝、天気が良く、空も澄みわたり、近くにいくつもの巨大な白い山の塊が見えた。Cordillera Blanca、白い山脈とはよく名付けたものだ。この緯度にして、この雪、氷の厚さはすごい。
町の中心部からLlupa行きのコレクティーボ(ハイエース改造バス)に乗る。車は町を出ると、すぐにでこぼこの悪路に入った。かなりの田舎道で、カラフルな布を背負い牛や羊を追うインディヘナのおばちゃんや、美しい田園風景が飛び込んでくる。ワラスの町では若者はジーンズを履いて都会の格好をしていたのに、ちょっと町を出ただけでこの違い。ここでは小さい少女もスカートをはいて、カラフルな民族色の強い服装をまとっているだ。
3、40分でPitec村への分岐となるのでそこで下車。右の分かれ道へと進む。あとはPitecの方へと登っていくだけ。そこらの人に「Churup? Churup?」と聞けば確実だ。何度か分岐があるが、その都度、人がより多く通っていると思われるほう、大きい道を選べばよい。
左手は谷で、ポツリポツリと民家も見える。ここでは昔ながらの生活を営んでいる人々の暮らしぶりが景色以上に興味深い。
約一時間で国立公園の表札の立つ地点に着く。ここの標高は3800m。ここから750mの登りだ。結構な坂なので思ったより心臓がバクバクし、息が荒くなる。まあ、もう富士山より上だ、当然といえば当然か。
少し登っては休み、少し歩いては休む。
道は川沿いに登っていた、おそらくこの川はChurup湖から流れ出したものじゃないだろうか。
一時間半ほど登りが続き、もういい加減着いてもいいだろうと思った矢先に、突然目の前に壁がドーン!と現れた。
この壁のような斜面を直登。超直登。
それから30分後、目の前にそれはそれは美しいChurup湖が姿を現した。
なんとまあ、摩訶不思議な色をしていた。たとえるならエメラルドグリーンとなるのだろうけど、ここで言うエメラルドとは本当に宝石のように美しいエメラルドだ。おまけにどこまでもどこまでも水は澄んでいた。
湖の奥には標高5500mのNevada Churupが聳えていた。
ここで昼食をとった。ピクニックポイントとしてはなんて贅沢な場所なんだろう。
標高が高いだけあって、下りは楽ちん。2時間でスタート地点に着く。そこからバスで現実世界へと戻った。
たった4時間の登りにしてはかなりすばらしい物が見える、グッドトレッキングだった。
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