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10.ウユニ塩湖
11.催涙ガス、浴びる
12.世界で一番・・・
13.六千メートルの世界
14.Next Stageへ
15.世の中、なんて不平等なんだ



 

 

Bolivia
11
.催涙ガス、浴びる

 
世界一乾いた土地を訪れ、
世界で一番大きな塩湖に行き、
今は世界で一番高い首都、ラパス

ボリビアは非常に小さい国だが、このラパス、想像以上に遠かった・・・

ウユニ塩湖のツアーを終えた僕らは、その足でコチャバンバというボリビア第3の町に向かった。この手前にもポトシやスクレという世界遺産に指定されている街があるのだが、コロニアル調はもういいや、時間がないので「自然」にターゲットを絞ろうと、パスすることにした。でもその前に、その広大さで有名なコチャバンバのマーケットを見てみようということで、この町に来たのであった。

そしてここに5日間スタックした。
ボリビアでデモが何週間か続いている、という噂は聞いていた。でもデモなんてどこにでもあるし、正直真剣に受け止めていなかったのだ。逆方向から来た旅人が、道路封鎖にあって5時間待たされた、なんて話も聞いたけど、待たされるのなんか慣れっこだし、まあいいかと思っていた。
しかーし・・・ことはそんなにシンプルじゃなかった。
このデモでの死者は70人を越した。

コチャバンバに着いた当日、僕らは早速町の中心街へと歩いて向かった。
このボリビア、屋台やストリートベンダーが沢山いて、アジアチックでなんだか楽しい。そう思いながら歩いていると、中心街から大勢の人がこちらに向かって歩いてきた。
「お昼休みかな、11時なのに早いなあ」なんてのんきに呟くと、急に鼻と目がツーン。前から来る人もみんな目を押さえてる。あ、もしかしてこれって催涙弾かなって気付くころには遠くにモウモウと煙が上がり出して、みんな一斉に走って逃げだした。そして僕らもそれに従った。

このデモで店は閉まっちゃうし、屋台で飯を食べてたら「ガスだガスだ」と人が逃げてくるし、なんだか尋常じゃないのである。もうこんな町脱出して、首都へ向かおうと長距離専用のバスターミナルへ行くと、ポッツリーン・・・
人がいない、バスもない。
聞けば、道路の閉鎖により、全てのバスは出発できなくなったという。
「じゃあ明日は?」
「ノー、ノー」
「明後日は?」
「うーん、もしかしたらね」
「・・・・」
そして、、、マーケット以外特に見所のないこの町にスタックしたのであった。しかもマーケットもほとんど閉鎖されているじゃん!

宿に帰り、旅人の緊急会議が開かれる(ていうかただのチャットだけど)。
ここには15人ほどの旅人が泊まっていた。
アイルランドの女の子2人はここにスタックして6日目。昨晩意を決してバスに乗ったものの、道路封鎖のため午前2時に舞い戻ってきたという。違うカップルも航空券を買って空港に向かったのに突如キャンセルとなり、宿に戻ってきてしまった、そんな人がゴロゴロ。
僕らはまだここに来て間もないからいいけど、この状況に辟易しているほとんどの旅人は、ここから飛行機で飛ぶ予定だといった。ちなみに国の首都、ラパスの空港は閉鎖されてしまっているので、違う都市を経由して、そこから他国に飛ぶということだった。その飛行機のチケットさえ取るのが非常に難しいらしい。
そうこうしている間にも、外からはパンパン、ポーン、ドゴゴーンという物騒な音。
警察が催涙弾を飛ばし、ラバー弾を民衆に発砲し、デモ隊はいたるところでタイヤを燃やしたり、大きな石で道路をブロックしていた。

  

では、この国でいったい何が起きているのだろうか。
簡単に言うと、まず政府がかつての敵、チリ経由でアメリカに天然ガスを売ろうとしていた。それを売ったお金で儲かるのは政治家だけだ、と言うのが大体の意見で、ガスは国民の物であり、国民に利益が反映されるべきだと、民衆が反発。付け加え、コカインの元となるコカの葉の生産抑制政策にも農民が反発(コカの葉はこの地では古くからお茶として飲まれていたが、その葉をコカイン製造業者に裏で流しているとのことで、アメリカの資金提供があり、政府がコカ農場に規制を入れだしたのか、入れだそうとの矢先か)。
まあ、ガスの輸出反対とコカの生産抑制反対と、大統領の退任を求める運動が始まり、政府に反対するには経済も崩壊させてしまえ、何でもやってしまえ的な、暴力的なデモに発展し、道路は封鎖するは、道を通るバスやトラックに投石するは、道でものを燃やしまくるし、政府系の建物に火炎瓶を投げ込むし、挙句の果てには首都の空港も閉鎖させ、線路も引っこ抜くはで、ほんと何でもあり。
その八つ当たりが外人に来たらどうしようとちょっと不安だった。

まあ、このデモでおかしかったのは、意外に民衆が一致団結して「いない」とこである。大きな通りでデモが行われているのに、そのとなりの公園ではカップルが平静にいちゃつき、大人は仕事が休みになってしまったものだから、路地でフットサルやバレーボールをやってはしゃぐ始末。子供は学校が休みなもんで、当然のごとく嬉しそうにヨーヨーを転がしている(なぜかヨーヨーが大流行)。
そんなもんで、僕らも気楽に構えることにして、スペイン語を勉強したり、閉まっている市場に通っては「まだ閉まってるよー」と愚痴をこぼし、人々の営みを見ては「ボリビアって面白いねえ」とうなずいた。

しかし、大使館の人に「デモは長期化しそうなので、国外脱出が無難です」なんて言われ、ボリビア全域に渡航自粛勧告が出てしまい、旅人がどんどん飛行機で逃げていくので、飛行機でペルーに飛ぶことに決めた。
そのフライトを予約した当日、18日、突如大統領が辞任し、国民の要求も全て呑まれ、この混乱に終止符が打たれた。
広場では勝利集会が開かれ、まるでお祭りの後の騒ぎのよう。
「ボリビアー、イエーイボリビア、大統領、バイバーイ」とみんなはしゃぐはしゃぐ。
これは実に稀なケースだと思う、だって武器もない民衆が政府に勝ったのだから。70人以上の犠牲を出して。
この、国が変わる瞬間に居合わせたのはとても幸せなことのように感じた。今後の結果はどうであれ、おめでとうと誰かに言ってあげたくなった。

そして、僕らも勝利した。結局宿に残ったのは僕らだけ。他はみんな国外に飛んでしまった。この美しく文化が豊かな国が見られないなんて、何てもったいないことだろう。

翌日、町は面白いように平常を取り戻し、僕らはバスでラパスへと向かった。
なかなかすごい道だった。
道路閉鎖というからには巨大なバリケードでも築いているものかと思っていたが、大小様々な石や、木の枝、ゴミ、壊れた車などが無造作に永遠と道路に並べてあるのだった。それを避けるのが大変で、通常6時間の道のりを11時間もかかってしまった。

それにしてもさあ、と僕は思った。
「並べるだけ石並べてさあ、民衆が勝ったんだから、自分たちで片そうよ!」

 

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