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16.ジジイとババアはハワイで寝転べ
17.最後のハイライト
18.白い山脈、Cordillera Blanca
19.靴どろぼう
20.エクアドル・イン
21.世界最高峰Cotopaxi


 

 

Peru >> Ecuador
19. 靴どろぼう

 

クスコで再会したアフリカで出会った友人が、首都リマからナスカへと向かうバスの中、後ろからスルスルと手を伸ばされてバッグに入っていたパソコンを盗まれてしまった。
そんな話を聞いていた直後、当然ペルーのバスには警戒するわな。ワラスからトルヒーヨ行きの夜行バスに乗った。ケチって最安のおんぼろバスに乗って、物を盗まれようもんなら元も子もないので、中級クラスの会社を選んで、バッグはチェーンロックで前の席とつなげ、紐も足に巻きつける念の入れよう。
そして僕はスヤスヤと眠りに就いた。おっと、足がむくんでしまうので靴を脱ぐのも忘れない。

午前4時くらいだった。バスはチンボテという町のターミナルに停車していた。ここらで便所にも行っておくか、と手探りで靴を探した。
あれ〜、見つからないなあ、どっかに転がっていっちゃったかな。僕は頭を逆さにして、周囲をくまなく見渡した。
「あれ、靴がない、ほんとない。どこにも、ない!」
まさかのまさかである。
靴を盗まれてしまったのだ。

でもね、靴を盗むほどせこい人間がこのバスに乗っていようとは、誰が想像しただろうか。こりゃー笑い飛ばすしかないのである。
コンダクターを呼んで、靴が盗まれちゃったって説明したら、なに!そんなわけないだろ、どっかにあるよと言って、一応懐中電灯をもってきて探してくれた後、こう言った。
「ほんとにないな、がっはっは」

目的地に着いて、はだしでバスを降りるときが一番情けなかった。
他の乗客もみんな笑ってた。
「彼、寝ている間に靴を盗られちゃったらしいわよ、フフフ」って。

カメラじゃなくてたかが靴さ、まあいいさ。
トレッキングの重要パートはもう終わっている、まあいいか。
だけどね、やっぱり頭にくるのである。
ペルーは南米で、最も外国人への盗難が多い国だと思う。観光名所が群を抜いて多いこの国へ足を運ぶ観光客もまた多い。それを狙った犯罪もまた多いというわけだ。首絞め、ぼったくり、睡眠薬、つばかけ強盗、聞いたストーリーは数知れない。
外国人はいい物持っている、お金も持っている、だから何を盗まれたってへっちゃらさ、盗っちゃえ盗っちゃえ、ってムードがこの国には漂っているのだ。
確かにさ、ほとんどの靴が2千円以下で買えちゃうこの国で、ゴアテックスのトレッキングシューズは高級品だと思う。でもね、僕はその価値を知っているけど、ペルー人から見たら、あの履き古して汚れた靴は一見したところ、ここで売っている2千円の靴と大差なく映ると思うのだ。それを外国人が履いているという理由だけで、高級品と思って盗んでしまう。
靴だからサイズだってあるだろうに、たいした現金にはならないだろうに、何よりも、盗んだ彼は、靴を盗まれた人間が、その後、違う靴を買うまで裸足で苦労するなんてことを少しでも想像しなかったのだろうか。それが僕には信じられないのだ。

それにしてもせこすぎるよ、寝ている人間の靴を盗むなんて。日本人の僕には想像ができない。なんてせこい事件なのだろう。
「せっけーんだよ!ペルー人、せこすぎだよ」僕はペルー人全員に向かってこの言葉を吐きたくなった。
どこの国にもいい人間と悪い人間がいる、という決まりきった偽善なフレーズが聞こえもした。でもね、そう考えるには僕の心は広くないし、心情として、やっぱなにか悪いことがあったら、その国全員の印象が落ちてしまうものなのだよ。

保険金請求のためにトルヒーヨの警察に出向くことになった。ペルーでは外国人に対する犯罪がとても多いのだと、その担当警官は分厚い被害ファイルを見せてくれた。とても親切な警察官だったけど、彼が最後に言った言葉が耳に残った。
「気をつけて旅をしてください。この国では誰一人と信用してはいけませんよ。」
それにしても、自国の国民を誰も信用するなとはいったいどういうことだろう。日本で、いくら外国人が犯罪に巻き込まれたとしても、「日本人は一人も信じてはいけない」なんて注意をする警官が一人でもいるだろうか。
彼はどんな気持ちでこの言葉を言ったのだろうか。その彼の気持ちを想うとちょっと悲しくなった。

「ペルー人なんて最悪さ」
なんて思っている僕は、次のチクラヨ行きのバスでも実に不快な思いをした。久しぶりにボラれたのである。荷物料金と言って、2ソル(70円)余計に取られたのだ。
たぶんボっているってわかってたんだけど、あんな事があった後だったし、「いいよいいよ、2ソルくらい。どーせお前らペルー人は外人からお金を余計に取ることしか考えていないんだろ」と自暴自棄的にボラれるがまま、ほっておいた。
しかし、ここで不思議なことが起こった。
僕達が2ソル多く払わされたことを知った周りのペルー人達が一斉に怒り出したのだ。
「なんで彼から余計にお金を取るんだ!ひどいじゃないか。ちゃんと金を返せ!」という風に。
結果、お金は返ってきた。それだけじゃなく、バスを降りると次のバス停まで案内してくれるやさしいおばちゃんまで出現したのであった。

さっき偽善とまで書いておきながら、僕は思うのであった。
うん、うん、どこにでも悪い奴といい人がいる。ペルーにだってセコセコマンもいれば、いい人だってたくさんいるのだ。
いや〜、単純だなあ

 

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