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16.ジジイとババアはハワイで寝転べ
17.最後のハイライト
18.白い山脈、Cordillera Blanca
19.靴どろぼう
20.エクアドル・イン
21.世界最高峰Cotopaxi


 

 

Peru >> Ecuador
21. 世界最高峰Cotopaxi

 

南米の旅がアウトドアの旅となったのを象徴するかのように、この大陸を後にする一日前、正確には23時間前、僕が何処にいたかというと、それは雪深い標高5897mの山の頂なのだった。
世界最高峰Cotopaxi、それはもちろんエベレストではない。世界で最も高い活火山だ。山頂の火口からは今もモクモクと熱い煙が噴出し、辺りは雪と氷、岩とクレバスの世界だった。

ボリビアで6千メーター級の山を2発登った後、もはや標高的には興味がない山だったが、写真で見たこの山の美しい風景が目に焼きついてしまい、なにより煙を今も出す火口が見たくなってしまい、登ることとなったのだった。
この山、あのキリマンジャロより2メートル高い。南米に来てからアフリカ最高峰の威厳が失われつつある。おーい、キリマンがんばってくれよ。

2日間のツアー登山の代金は130ドル(大抵の代理店は150ドル)と高い。高いとは僕がそう思うということ。世間一般では6千メートル近いこの山がこの値段なら安いのかもしれない。なによりもびっくりしたのは日本のアドベンチャー旅行会社が主催するツアーの料金だ。10日間くらいでこのコトパクシとチンボラソ(エクアドル最高峰6267m)を登るツアーが49万8千円。
だから今回の1万5千円を高いと言ってはいけないのかもしれない。それでも、やっぱり高いと思ってしまうのだ。この山は技術的には簡単な山で、道路が4500m地点までいっているため実質一日で登れてしまう山なのだ。それなのにこの値段か、ということだ。

一日目は移動日。
標高2800mのキトからコトパクシの駐車場までは3時間のドライブだ。最後の一時間は山道なので揺れに揺れた。しつこいようだけど、エクアドルはホントに美しい国だと思う。どこもかしこも緑で溢れている。
駐車場は4500m地点にある。そこから4800mの山小屋までは50分の歩き。ズルズルとスライディングする、火山の山にありがちな登りにくい斜面だった。辺りは一面の霧に包まれていた。そういえば、エクアドルに入ってから1週間、毎日午後になると雨が降っていた。明日は大丈夫なのだろうかと不安になったが、夜から朝にかけて、雲は下界に下りるので標高5000m以上は99%晴れるとのこと。
ふーん。

山小屋には25人くらいの登山客が来ていた。ガイドの話によると、この山の登頂率はたった25%だという。おそらくそれは、簡単な山だとあなどる人と、海外からやってきて、高度順化が充分でない人が多いためだと思う。
午後はアックスとクランポンの練習があったが、その練習場の氷河まで歩いて30分、そして練習はたったの30分というので、行かないで小屋で休むことにした。もう6000mの雪山を2度登っているのでたった30分の練習で得るものはなにもないという判断だ。なによりも、実は体調がよくない。
この山に来る前から、自分の登頂率は99%だろうと疑うことがなかったが、不覚にも昨日食あたりにあって体調を崩してしまったのだ。昨日は5回くらい吐いた。久しぶりにかなりきついあたりだ。
そして今日も体が熱っぽいと思って熱を測ったら37.6℃。うーん、こんなので深夜に6000m近い山に登れるものだろうか。不安になりつつもゲーターレードをがぶ飲みして寝た。

深夜12時起床。
夜2度も起きて水を大量に飲んだのが効いたのか、熱はひいていた。こりゃ行くっきゃないっしょ。
それにしてもまたしてもこのパターン。深夜の登山は好きじゃないってあれほど言っているのに、この山も雪が引き締まり、天候が安定している夜に登る山なのだ。
グズグズしていたら、僕らのグループが最後の出発になってしまった。

空は澄み切るとまで言えないが、充分晴れていた。風もない。気温は0℃くらいか。
こりゃー富士山くらい余裕な登山になるかな、といつもの登頂前だけの余裕ぶっこき。
最初の一時間はクランポンなし、ゆっくりと一歩一歩足を前に出す。かなり高い位置に、先行グループのヘッドランプの明かりが見える。
出発から一時間後、標高5100m地点からはいよいよ雪と氷の世界が始まる。
いきなりのクレバスの連続だった。そしていきなりの渋滞の始まり。前を行くアメリカ人のグループがあまりにも慎重で遅いのだ。ちょっとしたクレバスがあると、慎重に確保場を作って、過剰なまでの安全処置。
まあ、わかるけどさあ〜、落ちたときのためにガイドや仲間とロープで結ばれているんじゃないの。体が冷えるから早く進んでくれ、って思ってしまった。

大小様々なクレバスがあった。「大きいクレバスがあるんだが、それを越える道が雪に埋もれて見当たらないんだ!」なんて声も前から飛んでくる。思っていた以上にシリアスな山だ。今回はガイドをつけようかつけまいか迷ったけど、結果的にガイドをつけてよかったと思う。明るい太陽の下での登山ならまだしも、深夜にクレバスの位置がわかるわけがない。
氷河がスタートした地点から標高にして300m、一時間半くらいかな、大クレバス地帯が終わった。ペースは依然、早くもなく遅くもなくといった感じだが、それでも他のグループをグングン追い抜かし、気が付けばかなり前のほうに来ていた。高度順化とは恐ろしいものだ。僕は風邪気味で体調は70%といったとこだが、高度的障害は一切なし。他の人々は頭痛や吐き気でも感じているのだろう、見ているだけで辛そうだ。僕らと同時に出発した女の子も脱落して下山して行った。
それにしても、この「追い越し」はずいぶんと小気味いいものだ。特にアメリカから来た団体を追い越すのは格別。
性格悪いですかね。なぜかって、それは彼らが非常にかっこいいから。この8人くらいのアメリカ人は、おそらく山だけを短期で登りにきた、かなりの山経験のある団体だと思う。
なにがかっこいいかって、彼らの服装。アークテリクスのジャケットにビブ、マウンテンハードウェアのダウン、ORのゲイターにブラックダイアモンドの新しいLEDライト。まるでカタログから抜け出てきたような格好をしている。そんなカッコでエベレストでも登りに行くんですかってほど、ある意味この山では過重装備だけど、しかしかっこいいものはかっこいいのだ。
その彼らを、だっさいレンタルの寄せ集め、防水ですらないジャケットを来た若造が追い越していくのだ。それがなんとも愉快である。

時折斜面をトラバースしたり、またクレバスを越えたり、一息ついたりしている間に、空がかすかに明るくなってきた。時刻は5時30分。日の出前の瞬間って、どうしてこうも寒いんだろう。うい〜、ブルブル。やっぱり富士山ほど簡単な山じゃなかった、すんません。でも、ボリビアの山と違って、まだ余裕があった。写真を撮ることに興奮して、こんなに撮ってる奴いないんじゃないかってほどバシバシ撮った。登頂までに100枚くらい。

目の前の坂を登り切ると、前方に2つの高い頂が見えた。どちらかが頂上に違いない。右のほうの山を回りこみ、クレバスをジャンプして越え、アックスをさして急な斜面を上がる。なだらかな斜面を右に回り込み、壁に幾重ものツララがはえる地点で小休止。ここからは左手に頂上が見えた。
5000m級の別の山が前方に見え(Iliniza山)、遥か下の大地の畑までくっきりと見渡せた。もうとっくに陽は上がり、その下の大地にきれいな三角の形をした、この山の陰が映っていた。生憎ここは北斜面、太陽の恩恵はない。

 

   

    

    

   

6時20分、再度出発。あとはシンプルな直登のみだ。空気が薄くなってきてるのでゆっくりゆっくりと登る。雪が柔らかくなり始めた。
前方に強烈な光が上がり始めた。太陽だ!あの太陽が頂だ!

7時35分、標高5897m、世界最高峰のVolcan、Cotopaxi登頂!
頂上は広く、風もなく、太陽のおかげでポカポカと暖かく、ベストな状態。南方の頂上直下には、今も煙を出し続ける大きな火口が見えた。これが見たかった世界最高峰の活発な噴火口である。
徐々に下から雲が上ってきつつあったが、今はまだ遠くまではっきりと見渡せた。バニョスにいたときに天気が悪くて見えなかったTungurahua火山まで見える。ここの頂からは厚い灰色の噴煙が上がっていた。夜に天気がいいと赤いマグマが見えるんだってさ。さすが火の国エクアドルだ。

   

下山はいたって楽ちん。雪がだいぶ解けてきているので、滑り降りるようにズルズルと下った。何度も転んだけど、やっぱり下山は登りの5倍は楽ちんだ。
雲がどんどん上がってきて、あっという間にあたりは真っ白になってしまった。

   

時間かかった登りも、下りはたったの2時間。無事山小屋に生還。
休むことなく荷物をパッキングして、下の駐車場まで下った。
つかれた、つかれた、やっぱりつかれた。さすが5897mだった。
そして南米が終わった。ハッピーエンドでよかった。 

 

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