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Argentina>>Chile
5.チリパタトレッキング

 

「いやー、パタゴニアだなあ」
「ホント、パタゴニアだ」


そんな景色の中に6日間いた。チリのパタゴニアへと向かった。ここでいうパタゴニアとはTorres del Paine 国立公園を指す。ここにもアルゼンチンのパタゴニアと同様、有名な3本の塔、Torreと名付けられた山がある(アルゼンチンのCerro Torreとはまったくの別物)。Paineとは、スペイン語で青という意味らしく、最初にここを発見したヨーロッパ人が「青い塔を見た」ということからこの公園の名前が来ているのだとか。

1日目は生憎の曇り、僕らはトーレ山の麓のTorreキャンプに泊まる。朝日に照らされたトーレが非常に美しいというので、翌朝、陽が出る前から川沿いに沿って瓦礫の道を300mアップ。Torreのmirador(展望地)へと向かう。氷河によって創り出された湖の向こうにかすかに3つの山が見えたが、それはすぐに雲に隠れてしまった。この塔がこの国立公園の一番のシンボルだというのに残念。そして今日も曇り。
谷からは強烈なパタゴニアの風が吹いていた。薄緑色をした氷河の湖を眺めていると、不思議にも風の動きが、まるで形を持っているかのように見えるのだった。
キャンプ場からダラダラと6時間、次のCuernosまで歩いた。本来なら眼下にすばらしい湖が広がり、右手にも険しい山塊が見えるはずだ。こういった「山を眺めながらのトレッキング」系は曇るとちっとも楽しくない。
今のところ、このパタゴニアが特別にすばらしい物だとは思えないのであった。

夜、強風がテントを揺らがし、何度も目が覚める。海なんかないのに、遠くからは絶えず波の音が聞こえていた。
朝になっても依然風が吹き荒れていた。海の音の謎が解明された。すぐ目の前にノルデンスクヨルドという大きい湖があるのだけれど、あまりにも強い風がその湖に白波がたつほどの波を作り出しているのだ。

3日目の今日は嘘のように快晴で、朝日に照らされて輝く山並みが美しい。昨日はパタゴニアイマイチかなあなんて思っていたのに、現金にも「うおー、パタゴニア最高だあ」と叫ぶ。

Campamento Italianoを通り過ぎValle del Francesへ入る。直訳するとフランスの谷ということだが、理由はわからない。フランスには似ていないと思うし。
この谷は両脇に高峰が並ぶこの公園のハイライトでもある。
美しかった。西には3050mのPaine Grande、この険しい山には4,50mはありそうな氷河もしくわ雪の塊が岩肌に付いていて、時折爆音と共にそれが崩れ落ちた。そして東には5つのピョコピョコした頂を抱く山塊が見られる(地図の出来が悪く名前が不明)。一番右は最もごっつく頑固そう、その隣は頭に黒い冠をかぶっていた、次はフィッツロイの子子供のように形がそっくりで、その左は展望レストランのような台形で、最後は鋭い2つの塔。

   

フランス谷最奥のイギリスキャンプに着き、そこから展望地へと向かった。すぐに森林限界線を越えて、ツンドラの茂る斜面となる。標高は1000mを欠けるのに森林限界線が現れるのは、高緯度のせいである。北海道の大雪山も標高は2000mくらいながら、その高緯度さ故に気象条件は北アルプスの3000m級より厳しくなる場合があるのと一緒で、ここではさらなる高緯度、そして通年吹き荒れる強風がプロと呼ばれるクライマー達を魅了するのだろう。

360度の山パノラマの絶景が広がった。山からは何度も、雪崩なのか氷河の崩壊なのか、轟音と共に白い雪や氷が崩れ落ちる。それは大気を振動させた。その振動の合間に真の静寂がやってくる。そしてコンドルが空を舞う。にぎやかな山だ。この地方独特の遠くからは滑らかで、近づくと強固な岩肌たち。その岩を夕日が美しく演出した。

イギリスキャンプには雪が残り、とにかく寒い。夜はマイナス4℃くらいまで下がった。パタゴニアのあまりにも強い風になぎ倒された巨木の残骸がいたるところに転がっていた。ちなみに、この国立公園には国名が付けられた4つのキャンプ場があり、国は前述したイギリスとイタリア、次にもちろんチリ。最後の一つは名誉なことに日本、なのです。

朝、外のコッフェルに残っていた水は凍っていた。昨日は東斜面が夕日できれいだったので、今度は朝日に照らされた西斜面を見に行こうということで、再び展望地へと1時間歩く。もちろんもちろん美しい、白い雪がピンク色に染まっていた。その美しさには飽き足らず、さらに上、FortezaとEspadaのコルに登ってみようという事になった。このコルの向こうからはTorreのタワーが見えるかもしれない。

相変わらずこれが無茶だった。夏と違って道なんてないので適当に稜線を探し、沢を越えてはなだらかな斜面を選んでいったが、まず、雪が凍った沢を越えるのが大変だった。ツルンツルン凍っているので一歩足を踏み外したら3、400mスコーンである。最終的に、岩が今にも転がり出しそうな急な斜面で行き詰まり、この無謀な行為をやめた。まあ、眺めは最高だったからいいか。
朝っぱらから往復3時間も費やしてしまった。テントに戻ると、3時間も経っていたのに朝出発前にお湯にした水が再び凍りついていた、さみ〜。

2時間下り、もう2時間美しい湖を眺めながら平坦な道を歩き、Pehoeキャンプに着く。
夜、発電機の音が23時まで響いていた。ここまで来て、なんでこんな人工的な音を聞かねばならないのだろう。新しい、もっと立派な宿泊施設が建設中とのこと。
観光化が著しいTorres del Paine。南の湖側は車やボートで楽にアクセスできることからそれがいっそう加速している。この公園は昔ほどのワイルドさを失ってしまったと言われている。山小屋が増え、そこではご飯が注文でき、熱いシャワーも浴びられる。要は、装備をまったく持たなくても、4日5日のトレッキングができてしまうのだ。僕らの場合、冬季ということで施設はミニマム、人という人に会うことがなくてよかった。
この地も一昔前とはぜんぜん違うのだろうし、これからも変わり続けるのだろう、世界が皆そうであるように・・・ここにはもう荒野は残っていないのかもしれない。

5日目、キャンプ場に荷物を置き、Grey氷河へと向かう。カラファテのモリノ氷河を見た後じゃ感動しねーよって思っていたが、しまくりました、すんません。
歩いて2時間ほどで、氷河の全景が見渡せ、それからさらに1時間半でmirador(展望地)に着く。濃い緑色のGrey湖には氷とは呼べないほど巨大な塊がプカプカと浮いている。辺りは静寂そのものでまるで時間が止まったようだった。この大氷河はいつの時代から存在するのだろうか。

6日目は単調な道。今の時期はPehoeからのボートがないので、Administrativaまで5時間平坦の道を歩くことになるのだ。背後にはTorres del Pineの巨大な山塊が聳え立っていた。歩けば歩くほど山から遠ざかっていく。
さようなら、僕の中のパタゴニア。

  

山の帰りの交通機関で、僕はいつもボケーッと今そこにいた山を眺める。それは文明へと戻る恒例の儀式。この瞬間が僕はたまらなく好きだ。もしかしたらこれを楽しむためだけに、僕は山に登っているのかもしれない。

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NOTE:
9月初旬の時点で開いていた山小屋はAlbergue Chileno、Cuernos、Pehoeのみ、料金はドミが17US$でキャンプは5US$。ChilenoとCuernosはご飯もオーダーできるし、寝袋も無料レンタル。ワインやビールまで売っていた。Pehoeは寝袋もなければ、食料も一切ないので注意。それ以外のキャンプ場は全て無料。
CircuitコースはJhon Gardnerパスの雪の為公式には閉鎖。クランポンと防水のズボンさえあれば問題ないと思う。
交通機関のボートは停止、バスはプンタナタレスから一日一往復のみ。公園入場料は4500ペソ(900円)、夏季はこれの二倍。
ちなみに僕はこの公園では特許「ビニテックス」採用のスニーカーを止め、中古のゴアのトレッキングシューズをプエルトナタレスで購入した(60US$)。アラスカ、デナリ国立公園のような水攻めにあう、湿地帯の多いパタゴニアの長期トレッキングではスニーカーは無理であった、と思う。

 

 

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