2020年元日
さあ、下山だ。
目的は達し、厳しい場所は終わったので後はのんびり下りるだけ、気持ちがとても楽。
朝は少しだけのんびりしつつも、8:15には出発した。今日は24キロ先のチョムロンまで行こう、とハルが言う。初日に泊まったロッジが居心地がよくご飯も美味しかったので、そこまでは行きたいそうだ。結構な距離を気軽に言うようになったな、と思った。
最初は足元が氷のカリカリ路面で極寒。ハイドレが凍っていたから-5℃くらいだろうか?でもABCは-10とも15とも言われていたので、もっと寒かったかもしれない。
まだ頭が痛いとのことだったが、高度を下げれば治るし暖かくもなるし、急いでくだっちゃおう、と励ます。
しりとりをしながら、マジカルバナナをしながら、CCレモンをしながら、ポケモンの映画の説明を受けながら、とにかく相手をしないと進まない笑。一年に数回あるかないかの息子と向き合う濃密な時間、これもまた貴重なことだな。
すれ違う人々が「Happy New Year!」と呼びかけてくる。そういえば今日は元旦だった。なかなか特別な年越しだったな(毎年のようにそうだけど)
左右の斜面には氷の塊、振り返ればグレイシャードーム。ヒマラヤをいつか息子と歩きたいと思っていたのが、こうも簡単にあっさりと、しかもこんなにいいコースで叶うなんて、不思議なもんだなぁと思う。
歩いても歩いてもなかなか遠かった。目安となるバンブーに着いたのは13:30。チョムロンまではギリギリだよ、途中でやめる?と聞いてもやめないと言うので、ご飯も食べずに進むことに。
「里山の村々で泊まりながらのんびり歩こう」なんて来る前までは言っていたし、そう考えていたのに、結果的には前々日は17kmの8時間、前日は17kmの9時間、そしてこの日は24kmの9時間と、休む暇もない行程となった。
チョムロンに着いたのは日が暮れてから。さすがに遠かった。
ここから3時間も歩けばジープが来られる村に着いてしまう。かつては8日や9日かかったアンナプルナベースキャンプがこんなに簡単に5日で往復できてしまうなんてびっくりだな。
たったそれだけであの神の庭。山を愛するすべての人にお勧めしたい場所だった。
チョムロンでは念願のステーキとピザ、そして俺はビールをたっぷりと。すべての値段が高度が高いロッジよりかなり安くて、しかもドルもカードも使えるとあって、豪遊してしまった。
夕日が山に沿ってそびえるチョムロンの村を照らす。いい場所だなぁと何度もしみじみと思う。
トレッキング5日目。
さすがに歩き疲れたし、もう出口は近いし、翌朝はのんびりと。のんびりしすぎたかもしれないほど、ゆっくりと。だって3時間歩けば出口だから。でも日程の余裕はあるし、もはやポカラに早く戻って何をしようかと思ったので、試しに「もう一日山でのんびりする?」と聞くとそうしようとできすぎた答えが返ってきた。
行き先を変更して向かったのはジヌーの温泉。実は5日間、洋服を一切着替えていない。着替えを持ってきていたのに、寒くて着替えるのが面倒だったのだ。
温泉はジヌーのロッジ街から歩いて20分くらいの谷にあり、コンクリートでしっかりと作られた小綺麗な観光客向けの温泉だった。風情はないけれど、5日間ぶりの行水が最高すぎた。温度も適温で申し分ない。これでもう5日は持ちそうだった。
ジヌーからは行きに通った長い吊り橋を渡り、ニューブリッジと呼ばれる村を通り、さらに吊り橋をいくつか渡りランドルンまで。ようやくのんびりな里山を巡るヒマラヤハイクとなり、当初目指していた形態に近づいたのであった。
段々畑がとても美しく、山の中にポツポツと建つ家の中をすり抜けるように歩くのがなんともヒマラヤらしくて気持ちが上がる〜。
また、ここに来よう、今度はトレランかファスパスタイルで。
夜はずっと雨が降っていた。天気予報そのものの天気となり、あと2日ずれてたら登れなかっただろう。
トレッキング6日目。
朝は谷が霧に包まれ幻想的だった。
雨も止んでいたので、ここから5ー6時間先のダンプスまで里山ハイクへ。振り返ればアンナプルナサウスが微かに見える。かなり下の方まで雪が積もっていた。あとで聞いた話だが、3,000mのプーンヒル付近ですら相当積もって登れなかったらしく、ABCは完全な冬の雪山の様相となっていただろう。我々の今の装備では到底無理で運が良かったとしか言いようがない。また、天気予報は当たるので、世界の天気がわかるアプリやサービスで見続けるのは大切だとも思った。
今日に限ってはアプリの天気予報が悪いほうに的中してしまって、ぱらついていた雨が1時間ほどすると本降りに。茶屋でしばらく待ってみるものの、少し歩いたらさらに雨足が強くなってきたのでトルカ村外れの食堂でしばらく待つことにした。
そこの家族がかなり優しくしてくれて、暖炉にあたらしてくれて、冷えた体が暖かくな。靴も乾いた。
2時間ほど待っただろうか、雨は一向に止まない。このまま泊まって明日歩きなさい、とも言われたが、さすがにそうもいかない。雨の中歩こうと決めた矢先にランドルンからのジープが通り、必死で止めた。
「ポカラまで行ける?」
「2人で1500ルピー(1500円)だ」
のった!
いわゆるランクルのような7人乗りのSUVに12人のすし詰め状態だったけれど、奇跡のようなタイミングだった。
雨はこの後も止むこともなく、ポカラからカトマンズ行きの飛行機が全て欠航になったほど。
めちゃくちゃな悪路で、お尻が浮く、気が休まらずに手すりにつかまりっぱなし。一人だったらどうってことないけど、ハルを連れてこの雨の中は厳しかったから、とてもありがたかった。
ジープはあっという間にダンプスを過ぎて国道へ。林道が終わったのに国道もひどい凸凹道には変わりなく、なんで主要道路が20年経ってもこんなに悪い状態なのだろうか、と考えてしまうほどだった。トランジットで寄った中国はあんなに発展して、ベトナムやカンボジアなどの東南アジアの国々も変わってきているのに、こと発展という意味では、なぜにここまで遅れたままなのだろうか。
地理的に理するものがないからかもしれないな。観光的には素晴らしいけれど、観光だけでは食べていけない。鉱物や石油などの資源があるわけでもなく、山だらけで土地的に開発は難しく、中国とインドという大国に囲まれているので、ここを発展させるメリットがあまりない。産業も内需だけでは成り立たないから発展しない。だからいつまでたっても道路がこんなにボコボコで、信号も出来ず、ビルも建たず、貧しい暮らしのままなのだろうか。
旅人の視点では、開発のスピードがスローだから、昔ながらの魅力が残っているという良い側面もあるけれど、現地の人にしたらどういう気持ちなんだろうか。
ジープに揺られながらそんなことを考えていたら、夕方にはポカラのホテルに着いた。たった6日前に出たのに、遥か長い旅をしてきたみたいだ。
「今日は日本食だからね」
ハルが言った。