3:00に起き、ホテルのフロントから外を覗くとタクシーは待っていた。おじさんを起こし荷物を預け3日後に帰ってくるからと告げてから外に出た。ホテルのシャッターは閉められ、ここからはワンウェイである。タクシーの青年は我々を乗せると友人宅に行き、なぜか友人が車で同行することになった。メーターを点ける。自分の計算では80km走っても2,000元くらい、すなわち6,000円がいいとこだろうと思っていた。4人で割ればたいしたことはない。朝の5時間を失うよりよっぽどマシである。雨の中車は進み、最後のコンビニだよと言われたファミリーマートにてコーヒーを買った。「電光掲示板に7号線が閉鎖されているって書かれてたなあ」と真也がボソリ。程なく進むと道路にはA型のバリケードがあり、やはりこの先は進めない、というようなことが書かれていた。
ドライバーにどうしようかと聞かれたけど、バリケードをすり抜けて進めるところまで行ってみようよ、と提案してみた。それから5分は進めたのだけれど、そこから先はテープが道路を塞いでおり、本格的な通行止めとなっていた。この先は土砂崩れなどで道路が遮断されているらしい。これ以上進んで警察に見つかると罰金だよ、とドライバー。どうしようかと聞かれたけれど、街に戻ろうとしか言えなかった。しかしホテルはすでにシャッターが下ろされて閉まっていたし、とりあえずバスターミナルに戻ってみたけれど5:00前で真っ暗だった。隣の駅の2階なら空いているよと言われて、ドライバーとお別れしてから二階に上がってベンチに座った。皆で大したアイデアもなく、作戦会議をする。そして項垂れる。
バスが7:00に出るので、それまでに通行止めが解除される希望を持ってひとまず待とうとなった。でも開かなかったら・・・台湾まで来ておいて何も調べていないけれど観光なのかな。あと4日間もある。やや悶々としながら、それでも仲間と一緒なのでなるようにしかならないしな、とある程度割り切った気持ちになった。6:30にバス停に向かうとあっさりと登山口である「勝光」行きのチケットが購入できた。あれ行けるのか?と淡い期待をいだきながらバスを待つとそれは来た、しかも定刻通りに。大型ザックを抱えた、いかにも縦走登山客的な若者3名もバスに乗る。そしてバスは出発し、先程の通行止めの箇所もサクリと越えた。ただ、道路はひどいもので、かなりの場所が土砂崩れの被害にあっていて、道の半分がえぐれて川に落ちてしまっている箇所もある。それでもバスは比較的順調に進み、途中の南山村でトイレ休憩。ここで肉まんとチマキを購入、美味しかった。
9:45に勝光で降ろしてもらい、ついでに帰りのバスの時間を聞いた。14:00が「羅東」行き、14:20が「イーラン」行きとのことだった。雨が少しぱらついていたけれど、なんとかスタート地点にはたった。もう10:00だけれど、今朝の4時には立てるとは想像できなかったものだ。
そして我々はスタートした。リンゴ畑を超え、キャベツ畑が続く道を。
道は軽トラが通れるほどの林道で、溜池を越えると杉林の中のスイッチバックの登山道となった。勝光という小高い丘を越え、約一時間で正規ルートと合流する。ここまでコースタイム100分のところを60分である。台湾の山のコースタイムは厳しめ、と聞いていたのだけれどそうでもないみたいだ。
3組ほど台湾人登山パーティーを追い越した。この予報でも山に入っている人がいることと、我々よりペースが遅いのが安心どころだった。比較的若い登山者が多く、誰もが巨大なバックパックを背負っていた。日本で言うところの70L〜80Lレベルで、外側にリンゴがたらふく入ったビニール袋が取り付けてあったり。こりゃ重いはずだ・・・
しばらくは平らだったので「ファストパッキーング!」と叫びながら、小走りで進む。小川をいくつか越えると林道と呼ばれている7kmの区間は終わる。ここに国立公園の看板が大きく立っていて、いよいよ本格的な登山道となった。
スイッチバックを折り返しながら進む森の中の道。雨でカッパを着ているせいか汗が吹き出してくる。高度がそれなりにあるから気温はそこまで高くないのだけれど、低山だったら蒸してこれどころじゃないんだろうな、そんなことを思いながら登る。巨木と一言で言うには失礼なレベルの、まるで屋久島に生えているような大きな木々ばかり。「うわ〜」と一同ただ感動しながら進んだ。雨で展望が優れないぶん、苔むした森の中は神聖な光景だった。一時間と少しで多加屯山2795mに着く。展望はまったくなかった。ここまでは笹の猛攻が続く。両脇から笹が覆いかぶさっている道で、チクチクするし、暑くて短パンになっていると下半身がびしょ濡れになってしまった。
下っては登り、ほどなくして雲稜山荘へと着く。時間は15:00、山ではここで行程を切り上げていい時間だが、当初の予定では南湖山荘までたどり着いておきたかった我々としては、出発が5時間遅れていたとしても、今日中にできる限り進んでおきたかった。小屋はいわゆる無人の小屋だがとても立派で、就寝スペースの他にキッチンがあり大変賑わっていた。女性のトレッカーにコーヒーを進められ、後ろ髪を惹かれる思いだったが、前へ進むことにした。夕暮れまであまり時間がないが、次の山小屋までコースタイムで3時間30分、進まなければいけない。
山小屋から次のピークまでは500mアップ、しばらくは登りが続いた。気温も下がってきたので、立ち止まると寒い。最低限の装備で挑むファストパッキングスタイルだと動きながら体温を上げることを前提としているため、疲れて足取りが遅くなると辛い。これは結構リスキーなアクティビティのスタイルだなと思った。実は2日くらい前から咳が止まらず、体調が万全ではなかったのだ。本来なら坂道も駆け上がりたいところだったけれど、3日目まで体力を温存しておこうと慎重に進んだ。メンバーの一人、オカピーはアウターの中がびっしょり濡れてしまい、休むと凍えて寒そうだった。
それにしても見事な巨木の森だった。植生といい、雨の多さといい、苔むした感じや巨木、まるでここは屋久島だった。
17:15、雨も弱くなってきた中、道をそれて台湾の百名山の一つである審馬陣山へと登る。あいにくと眺望はゼロだった。
残念に思いながら目的地の山小屋まで下っていくと、雲が急に消え目指す南湖大山が姿を表したのだった。4人共歓喜の声を上げた。明日進む稜線もくっきりと見える。3:30に起きて、行けるかいけないかわからなくなって、それでも来ることができて、そしてここまで進むことができて、これはまるで今日諦めずに前を向き進み続けた我々へのシメのご褒美のような気がした。
18:00、審馬陣小屋へ。小さなプレハブが2つ並んでいるだけのミニマルな小屋。予約していなかったので外でテントを張ることも考えたが、予想通り中には誰もいなかった。もうじき夕暮れなので、当然もう誰もこないと踏んで大きい目の小屋に泊まらせてもらうことにした。濡れた服を脱ぎ、マットを広げお湯を沸かし、極楽である。「予想していたより進めたね、明日どうしようか。天気はどうかな」アルファ米を食べながらそんなことを話し、一同満足感に浸っていた。
19:00過ぎに外でライトが光る。まさかの登山者到着。いまさら外にテントを立てたくないね・・・とビクビクしていたら登山者は一人だったようで小さい方の小屋に入っていった。もう寝ようか、とライトを消そうとした20:00頃。今度は複数の声が外から聞こえてきた、まさかのグループ到着。きっと追い越した人たちに違いないけれど、暗闇の雨の中、大きな荷物を背負って2時間も歩いてきたことになる。台湾人のメンタルの強さにびっくりしたけれど、さて、問題は小屋のスペースだ。ガラガラガラ!と扉は開かれ人数をカウントされた。どうやら小さい小屋には入り切らない人数のようで、こっちに一人入れるか?と相談された。もちろんだよ、とスペースをあけて、やはりちょっとホッとした。さすが今から外で寝たくはなかった。
この後は誰も来ることがなく、移動二日目にして3:00に起床し動き続けて疲れ果てていた我々は深い眠りに落ちていった。