キューバ第二の都市、サンティアゴ・デ・キューバへと向かうバスは暗闇の中南東へと走っていた。道路が波打っているのか、横揺ればかりするのでいつか倒れるんじゃないかと思ってしまったほど。やや不安になりながら、何度か起きる。
6:00でもあたりは薄暗かった。日の出も日の入りも早い。そうか、ここも北半球だから夏のように暖かいのに日照時間は冬なのだな。なぜか暗闇で歩いている人がいたり、多くの人がおそらくバスを待っていた。人は移動する、自分もまだ見ぬ世界へと移動してる時間が好きだ。だから短い旅行でもとことん移動する。一箇所にじっとしていることができない性格だからでもある。でもどんなに短い旅行でも、移動して辿り着いた先の光景が生涯心に残るものだったりするから面白いなと思う。
好奇心が昔より減ったためか、それとも旅が久しぶりすぎるのか、ワクワクよりもドキドキがちょっと勝っている。さて、いったいこの少ない日程をどう過ごそうか。飛行機の中やバスの中で考えても決めきれない自分がいた。サンチアゴは外せない、せっかくだからトリニダーかカマグウェイは行くべき。あとは・・・・
なぜかバラコアという地名に引っかかっていた。ただ、この短い日程で他も回りたいと思うなら、結構チャレンジングな場所に位置していた。なぜなら「最東端の街」とガイドブックに書かれていたから。キューバが小さい小島だと思ったら、とんでもない。面積では日本の本州の半分で、東西1,250km。人口だって1,000万人。島としてはカリブ海最大の島なのだ。
それに加え交通網があまり整備されておらず、マイナー路線は基本的にバスが一日決まった時間に一本という旅行のしにくさ。バラコアも例に漏れず、ハバナから15時間かかるサンティアゴよりさらに5時間半、バスは当然一本のみだった。やっぱりこの日程では無理そうだなと思っていたところ、予期せぬ時間にバスがサンティアゴについたのであった。15時間の移動と計算すると到着は9:30かと思っていたのに7:00に着いてしまった。バスターミナルが街のどこにあるのかも、宿をどこにしようかも決めきれていない。ターミナルでガイドブックを開き、壁の時刻表を見てると、バラコア行きが7:45にあるではないか。これは行けってことじゃないの?バスの出発までは15分を切っていた。なぜかバックパッカーがたくさんいて、皆バラコアに向かうよう。やっぱり何かあるのかな。移動の連続になってしまうけど、旅は成り行き、行き当たり。サンティアゴをスルーすることを決め、バスに飛び乗ったのであった。
広大なサトウキビ畑を抜け、悪名高いグアンテナモへ。ここはアメリカと国交断絶しているのに関わらず、アメリカが永久借款している土地があり、そして嫌がらせのように極悪犯の収容所があるのだ。Google Mapを拡大するとここだけアメリカ合衆国と書かれている。不思議なことだ。
その後さらに東へ。美しい海岸線を抜け、サボテンが生える乾燥した大地を走り、最後は密林の中の峠道を進む。5時間かかり、ようやくバラコアに着く。バス停には民宿の客引きさんがたくさんいた。10CUC(1100円)と声をかけてくるので、キューバとしてはかなり物価が安いよう。客引きに釣れられていっても良かったのだが、ひと目みたいホテルがあった。かつてゲバラやカストロも泊まったというホテルが海沿いにあるというのだ。それも21CUC(2200円)とキューバでは破格。
もう鄙びてるとガイドブックにはよく書かれていなかったけど、入ってすぐにここでいい、と決めた。確かに古いし、ドアもガタつく。エアコンもリモコンもないし冷えるかわからない。でも窓はオーシャンビューで一階にはひなびたバーが有る。宿泊客はいない。早速ビールを買って、テラス席からマレコン通りを眺めながらいっぱい飲んだ。
街を歩く。コンパクトで絵になる。人はみんなのんびり。馬車や自転車タクシーが現役だ。客引きみたいのも一部いて近くのビーチなどに誘われるけど、ガツガツしてないので、断るとあっさりとひく。レストランはどこもガラガラでこれでどうやって行ってるんだろうか。それにしても暑い、日差しが強烈で汗が吹き出る。
明日の国立公園ツアーの予約をして、モヒート飲んで、要塞みて、夕暮れのマレコン通りを歩いたらもうやることがなくなった。
暇だ。最近「ひま」「やることがない」ということがないので、なんだか慣れない。持ってきた本もまだ読んでいないけれど、ビールやラムを飲んでぼーっとしている方がキューバにあっているような気がした。
そういえば、ここはかつてコロンブスが上陸した場所でもあった。街のはずれに彼の銅像と十字架があった。この「新大陸発見」は中南米ではいいことや記念日となっている、ポジティブに捉えられているのがちょっと不思議だった。だって、発見され侵略され、アフリカから奴隷として連れて来られたのに。ただ、当時カリブに住んでいた原住民はもういない。みんなほどなくして、絶滅したのだ。ああ、人間の残虐性。
馬車が現役で走っていた。
自転車タクシーがゆっくりと追い越していく。
若者たちは路上で裸足のサッカーをしていた。しかもかなり本気で。
公園に行くと必ず多くの人がいた。
昼から飲んでいる人がかならずいる、仕事は?
結構な数のバックパッカーがバスには乗っていたのに、誰一人みかけない。そこそこの人が飲んでいたホテルのバーは、夜になると誰もいなくなった。みんなどこで何をしているのだろうか。
昨日はヘミングウェイが通ったバーで、彼のお気に入りのモヒートを飲んだ。今日はこうしてコロンブスが上陸した場所にいて、カストロとゲバラが泊まったホテルにいる。通りを眺めると、そこには馬車が走っていて。いったいここはどこなんだ?酔っぱらった頭で考えながら、暑い部屋に窓から入る海風が心地よく、電気をつけたまま眠りについていた。