至福の時

@ Rainy Day Cafe

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6月から雑誌『coyote』のcreative writing 講座たるものに行っていた。
全4回で、どの時間も素敵だったのですが。今日は最終回。
特別講師として、な、な、なんと!!!

沢木耕太郎さんが来てくれたのでした。

沢木さんがどのように文を書くのか。その技法を垣間見せてくれました。懇親会にまで参加してくれたので、聞いてみたかったことをいくつか、聞いてみました。

まず、ひとつ目は、「これまで行った場所で、もう一度行きたい場所はあるか」と。
これは、僕自身が80カ国くらい旅している、というと、きまって一番良かった国は?と聞かれるので、一番は答えられないけど、もう一度行ってみたい国なら●○とかあるよ、と答えているので聞いてみた。

答えは、ないのだそうです。
行った事のないところに行きたくなるので、一度行ったところにもう一度行くというモチベーションは沸かないそうです。(たぶんハワイやマカオを除いては)

では、新たに行きたいとこは?と聞くと、これも行き過ぎていて、今過ぐには思いつかないということでした。

なんだか、自分と答えが似ていたので、ちょっとうれしかったです。僕も、すごい行きたかったアフリカに行ってしまった後は、人生を賭けてまで行きたいところはほとんどなくなってしまったように感じられるし、一度行ったところは魅力がとても薄くなってしまう。

旅で一番好きな瞬間は移動しているとき。町に着いたときよりも、バスの中や列車の中で一番わくわくしている。まだ見ぬこの先に、いったい何が待ち受けているのだろうと思うのだ。

話を聞いていたら、かつて、10年前の自分が不思議に思っていたことを思い出したので、それを聞いてみることにした。

僕がポルトガルのロカ岬からシンガポールまで、陸路自転車で旅したのはもう10年ほど前。日本人の旅行者に会い、ルートを言うと、きまって「深夜特急の逆コースだね」と言われた。
いろいろな理由でそのルートを選んだのだけれど、旅する前まで『深夜特急』の存在すら知らなかった。

定期的に日本から大使館付で荷物を送ってもらっていたので、章ごとに3回に分けて『深夜特急』を送ってもらった気がする。インターネットもない時代だし、日本語にはことさら飢えていたから、何度も何度も読み返した。そしてすぐに沢木ファンになった。

そのことを話すと「それは理想的な読書だね」と沢木さん。

ポルトガルを出発してから半年が過ぎ、インドのバラナシに着いて細く狭い路地を歩いたとき、深夜特急のワンシーンが頭に浮かんだ。10年以上前に書かれたその文章はあまりにリアルだった。いま、この場所で見ているものと、本で読んだ一文がリンクする。まるで文が、文字が生きているようだった。こんなにリアルに文章が書けるものだろうか。こんなにリアルに物事を、風景を描写できるのだろうか。

しかも、だ。深夜特急は沢木さんの旅が終わってから、しばらく経ってから書かれたものだ。
この沢木さんという人は、旅が終わった後に、深夜特急という物語を書くために、再び旅のルートを踏襲したに違いない。当時の僕はそう思ったものだ。

その疑問がふと沸いたので、ここぞとばかりに、10年越しの質問をしてみることにした。

答えはほぼわかっていたのだが、もちろんのごとく、沢木さんが深夜特急のために同じルートを歩いたという事実はない。友人に当てた手紙や、当時とったメモを頼りに『深夜特急』は書かれたらしい。メモや手紙を見ると、そのときの場所が、映像で広がるのだと言っていた。
もはや才能ですね。
どのように深夜特急が書かれたかというのは、1ヵ月後に出る新刊に書かれているということだったので、詳しくは本で呼んでみることにします。

それにしても素敵な人だった。
そして最高に至福な時でした。
この場を創ってくれた新井さんに感謝したい。

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