インドの旅行を表現すると「こちらが何もしなくても、向こうから何かがやってくる」ということに尽きると思う。日本で街に突っ立っていても、何も起こらないし、自分がアクションを起こさないと何もはじまらない。ただ、インドでは自分が何かをしなくても、必ず何かがはじまるのだ。
空港の固いベンチでうまく眠ることができずに、5:00に目が覚めた。外はもう明るいし、旅も短いし、空港内にいても何も面白くないので、タクシードライバーとでも会話して時間をつぶそうと、コーヒーを買ってから外に出る。
1秒でおっさんがやって来た。「タクシー?」
「いやー、タクシーはいらないんだ。朝の飛行機でブータンに向かうから」と僕。
「10時の飛行機か?」
「そうだよ、詳しいね!」
「それまで街にいけばいいじゃないか」
「実はさっきサダルストリートに行ったんだけど、ホテルが閉まっていて戻って来たんだよ。だからタクシーもいらないし、街にも行かないんだ」
そこからは、インドが何回目なのか、コルカタは何度目なのか、どっから来たのか、どういう行程なのか、一通りの会話が続いた。
「なあ、でもな、これから2時間あるんだから観光に連れて行ってやるよ。ここから20kmほど行くと、有名な寺院があるんだ、そこに行かないか?」
コルカタの寺院にはあまり惹かれない。ほとんどの有名な寺院は以前来た時に行ったけど、ぐっと来るものがなかった。お寺には興味がないんだと伝えると、
「じゃあ、ガンガーはどうだ?」
母なるガンジス川か。コルカタにも流れているのだろうか、何にしてもそれは悪いくないプランだ。
すぐに心を見透かされたのか「500ルピーだ!」と彼は行った。
「400ルピーでどう?」と僕。
「ガンガーはすごく遠いんだよ。片道20kmもあるんだ。ガソリンも高いし、500ルピーなんて不可能さ」と彼。
まあ交渉している時間がもったいない。800円だしさっさと行くか。
タクシーの駐車場に向かうのかと思っていたらちょっと違う。「これだよ、乗りな」と言われた車は黄色いタクシーではなく、白い車だった。
あれ、白タク(笑)? まあ、いっか、インドだし。車は西へと向かう。さっきとは打って変わって高速のようなきれいな道。両脇には小さいショップが並んでいて、カラフルなインドトラックが停車していた。
途中ものすごい異臭を感じて外を眺めると、広大なゴミ捨て場だった。そこには豚や牛たち・・・
インディアー!!!!
高速を外れて、未舗装路を走る。両脇には花やポリタンクなど寺院に持っていくようなグッズを売っているお店が建ち並ぶ。おそらくガンガーは近い。
そんなこんなで、彼の言うガンジス川には意外とあっさりと着いてしまった。
(本当に20kmもあったのだろうかと、今Google Mapで調べたのだけど、正確には12kmだった。インディアー!!!)
寺院の名前はカーリー寺院だった。またここは、ガンジス川の本流ではなく、正確にはフーグリ川だろう。ただ、ガンジス川から分岐して来て入るので、この先が聖地バラナシとドライバーが言った言葉に偽りはない。
寺院に来るつもりはなかったけど、ガート(沐浴場)があるということはヒンドゥー寺院も付属していてもおかしくはない。それにしても、予想外に立派なお寺だった。ヤギの生け贄で有名な場所らしい。
日曜日だったので朝からたくさんの人がいた。聖地でもあり、行楽地でもあるのだろう。家族連れや若者のグループも多かったし、毎日のように沐浴しているような常連のような人々もたくさんいた。
きったねー川だなー、と正直に思う。こんな川で洗濯している人もいれば、沐浴している人もいるし、シャンプーで頭を洗っている人もいる。まったくもってそれがインディアー!!!、なわけで。
3年前にバラナシのガンジス川で沐浴した時は、その2日後くらいに高熱が2日間続いた。あれはきっとガンガーのウイルスだったに違いない(しかも帰国してすぐに人生初のインフルエンザに発症した・・・)
面白かったのは、磁石を川に投げている人々。まるで釣りをするかのように、重い磁石を川に投げては引き上げている。聖地なので川にお賽銭を投げる人がいるのか、もしくは沐浴している人々の貴重品が落ちるのか、何はともあれそれらを狙っているわけだ。日本のお寺でやったらかなり白い目で見られるよ、それ、と教えてあげたい。
のんびりと、その聖なる濁った川を見つめた。ようやく日本から遠くはなれた地に来たという実感があった。中国の空港でもタイの路上でも感じなかったこと。来てよかったなと、なんだか得した気分になって空港へと戻ることにした。
タクシーのドライバーは5Lのポリタンクを購入し、聖なる水を汲んでいた。持って帰るのだという。
日曜日の駐車場台が予想外に高くてびっくりしたのか(50ルピー、80円、タクシー料金の一割)、「駐車場代がさ、高くてさあ」と何度か料金所に僕を連れて行こうとしたけど、「ふーん」と別の方向を向いて、そこはあえてスルーする。
空港への帰り道に、街道のドライブインみたいなローカルレストランに寄ってもらった。昔自転車でインドを旅していた時は、遅くなるとこのような街道沿いのレストランに寄って、朝まで寝させてもらっていたんだよなあ。あの時の自分は本当にすごかったなとシミジミと過去を振り返る。
プーリー(揚げパン)とオムレツ、そしてペプシを飲んだ。
支払いの際に、先ほどの駐車場代未払いの復讐なのか、ドライバーは「チップを払ってやってくれ」と得意そうに言った。こんな100ルピーもしないようなレストランでチップなんてあるわけないけど、「へー」と20ルピー支払ってあげた。ドライバーは心なしかオレの連れの外人がよお、と常連顔で得意気になっているような気がした(錯覚?)。
空港に着くと、いつのどの飛行機で何時に帰ってくるんだ、と彼。詳しく話すと、じゃあ、その時間に待っているから次もよろしくだぞフレンド!ときた。
今日もインドはインドだった。