Day 11 @ Kaikoura Sky Dive
運転手をあわせて3名が乗った小さなプロペラ機は、たいした助走もせずに軽々と空に浮いた。
ぐるぐると旋回しながらひたすら高度だけを上げていく。目指すは3,300m。
人生初のスカイダイブ。日本では4万円、ここニュージーランドでは2万円なり。べつに安全なんだろうけど、やっぱりちょっとビビってしまう。つい最近、近所でスカイダイブの飛行機が落ちて、9人死んでるしなあ・・
ドキドキするわけではなかったけど、3,000mまで登る15分〜20分の間、久しぶりに生と死についてしみじみと考えたのだった。
“飛行機の運転手ってよっぽど度胸があるよな。こんな不安定な乗り物で、練習中に一歩間違ったらすぐあの世だな。バックカントリーなんかに比べてよっぽどリスクが高そうだな。でも交通事故で死ぬ人が一番人数としては多いな。果たして、このスカイダイビングで死ぬ人って確率的にどのくらいなのだろう。もちろんガイドが一緒に飛んで死ぬときはガイドも死んじゃうわけだから、彼らの命をかけても安全に違いない。でも実際に死ぬとしたらパラシュートが開かないわけで、その後の地上に衝突するまでの30秒間はいったい何を考えるのだろうか。スカイダイビングをやって生を実感した、って体験の言葉もわからなくもないけど、じゃあそれで体験できた生って今度は何をやらないと確認できないんだろうか。”
などなど、ぐるぐるといろんな事が脳裏を巡った。
ジオラマのように見えるカイコウラの美しい町並みと雪を被った山にクジラがいる海。なんだか景色が非現実的。
飛行機に乗り慣れているせいか、まるで旅行をしているようだった。
「さ、そろそろ準備をするぞ」とガイドさん。
膝に乗ってと促され、彼の体とボクの体を繋げ、ハーネスを締め、カラビナの確認。
「あと1分」
パイロットは言った。
どうやら、3,300mに到達するようだ。
あっという間に飛行機のトビラが空けられ、風が暴風となって機内に入ってくる。
まるで、プールの飛び込み台のような台に足を乗せた。下までは3,300m、障害物はゼロ。
「さ、いくぞ、踏ん張って」
ガイドさんが耳元でつぶやくやいなや、両足を踏ん張ると、あっという間に体は空中へと押し出され、宙へと舞った。
ふわりというわけではなく、急な落下。
ものすごい風圧。
急激な勢いで景色が変わっていく。地上が近づいていく速度が半端無い。
3,300mからパラシュートが開く1,500mまではたったの40秒しかなく、凄い速度なのだが、それがえらく長く感じられた。
体のどこかのセンサーがこの体験で解放されて、その穴が何かを感じとり敏感になっているのかもしれない。
恐怖はまったくなく、いたって冷静だった。
まるで自分の体ではないみたいな、どこかから自分の体を俯瞰しているような、なんか夢のような感覚だった。
急な衝撃を感じ、早送り状態から一気に普通のスピードへと戻る。
パラシュートが開いたのだ。
あとはのんびり景色を眺めたり、回転したりしながら地上へとゆっくり降りるだけ。
アドレナリンがビンビンのニュージーランド最後の凄い体験だった。
またやろう、と心に決めた。