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ラストラン (マレー半島)
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南へと向かった。もう一つのユーラシアの果てへと。
 しかしぼくにはもうわかりきっていた事があった。ぼくは確実にシンガポールに着くのだと。シンガポールはもう手の届くとこまで迫っていた。
 もう冒険は終わったのだ。
 やはり、ぼくの旅はバングラデシュのダッカで終わっていたのかもしれない。もしくはタイに着いた時点で、それとも先が見えてしまった時点で終わったのかもしれない。先の見えないものを目指すから、それは冒険となりうるのであり、その場所が見えてしまったらもうそれは終わってしまうのだ。

 4月1日。ぼくはマレーシアからシンガポールへと続くジョホール水道を渡る。ぼくの自転車はもう末期症状に入っていた。ギアを高速に入れると、ペダルがけたたましい音を上げ何かに引っ掛かる。おまえもよくここまでがんばったな。ここまで来れたのは君のおかげだよ。ありがとう。

 橋を渡りきると、そこはもうシンガポールだった。

 ぼくはついに、最終目的地、ユーラシア大陸のもう一つの果て、シンガポールへと到着したのである。日本を出てから9ヶ月、ポルトガルから1万7000キロの果てであった。当初の計画では、ぼくはここで感激のあまり止めどない涙を流すはずだった。しかしぼくの心は乾いたままだった。涙など一滴も出てこなかった。
 シンガポールの象徴であるマーライオンも眺めに行ったし、海も見に行った。しかしそこには何もなかった。ぼくが目指していたものは、ここにはない気がした。
「ここで本当に終わりなのだろうか」
 ぼくにはここで、このシンガポールの地で自分の旅が終わってしまうことがどうしても信じられなかった。「シンガポール、シンガポール」ぼくは呪文のようにこの言葉を念じながら走ってきた。シンガポールに待っているものがあるのだと。しかし一体何がここにあったのか、なにがぼくを待っていたのか、ぼくにはわからない。
 しかし・・・旅は終わったのだ。

 3日後、日本への航空券を購入し宿へと向かう途中、道端で一人の日本人の青年に出会った。彼は自転車にまたがっていた。どこまで行くのかとぼくは尋ねた。すると彼は言った。
「ユーラシアの果てまで、最西端ポルトガルのロカ岬です」
 なんてことだ。なんという奇遇。ぼくの旅の終着点であるこの地で、この旅の出発点へとこれから向かう者に出会うとは。
「気を付けて、決して諦めないでがんばって下さい。」
 ぼくは彼に言った。
「はい!」
 彼は目を輝かせながら言った。自転車に大きな荷物を付け、北へと向かう彼の背中を、ぼくは見えなくなるまで眺めていた。
 彼はこれから目指すのであろう、あの荒野の先を・・・

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